新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

社会問題のるつぼ

 本書は、BS朝日の「町山智浩アメリカの今を知るTV」で、2016~22年にかけて放映された内容をもとに書籍化された「現代アメリカの病巣」論。町山氏は映画評論家でジャーナリスト、相方の藤谷文子氏は女優。いくつものインタビューを交えながら、ドラマのように話しが進んでいく。今年は11月に大統領選挙を控える選挙イヤーで、通年以上に<分断>が強調される1年になるだろう。どんな論点がメジャーなのか、整理するために読んでみた。

 

 基本的な問題は、白人がマイノリティになってしまい増々肩身が狭くなっている人種問題。これにキリスト教的世界観への回帰と、暴力的な集団(や個人)の行動と、街中にあふれる銃器と麻薬が加わってくる。

 

        

 

 オバマ政権の8年間は、白人たちには衝撃的だった。増え続ける移民・難民、彼らにもケアを税金で施す制度が出てきて、ケアを受けられないぎりぎりの層(の白人たち)はキレた。それがトランプ大統領の誕生を生む。もちろんそれ以前にも政争は激しくなっていて、ヒスパニックや黒人層が住むエリアから投票所を無くす知事もいた。

 

 またキリスト教福音派の政治的影響が大きくなり、最高裁判事共和党色を濃くした結果、中絶禁止の州法がいくつも生き返った。州によっては避妊を禁止しようとの動きもある。銃の所持も市民の権利として擁護され、あれほどの犠牲者を出しながらアサルトライフルのような軍事兵器の取り締まりもできていない。国内には3億丁以上の(公式に認められた)銃が存在している。

 

 中米ホンジュラスらからの難民が大量にやってきていて、ある村では人口の9割がヒスパニックになった。かの<三角地帯>の政情不安や気候変動が原因なので、カベを作ったところで防ぎきれるものではない。

 

 結局富裕層(白人に限らない)は、特定のエリアにまとまって住み、十分なお金をかけて防衛できる生活を<居留区>として維持するしかなさそうだ。社会問題の詰まった世界最大のるつぼが、この大陸にあるようです。