新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

プロたちのツールへのこだわり

 本書(1965年発表)は、先月「死者を鞭打て」を紹介した冒険小説の雄ギャビン・ライアルの作品の中で、本棚に残った最後の作品。僕は後年の<マクシム少佐もの>、例えば「砂漠の標的」あたりが大好きなのだが、マニアが好むのが1970年代前に発表された単発もの。中でも「もっとも危険なゲーム」と本書の評価が高い。

 

 主人公ルイス・ケインはビジネスマンだが、どんな仕事でも請け負う裏の顔を持っている。WWⅡではフランスのレジスタンスを支援する工作員だった。暗号名はカントン。今回の依頼は、ある大物実業家をブルターニュからリヒテンシュタインまで届けてくれというもの。もちろん生易しいトランスポートではなく、実業家は命を狙われている。さらに実業家自身、フランス警察に追われる身なのだ。

 

        

 

 実業家は(タックスヘヴンの)リヒテンシュタインに設立した会社の乗っ取りを防ごうと現地に向かうのだが、それを阻止したい乗っ取り勢力は欧州No.1とNo.2の殺し屋を雇ったらしい。ルイスはNo.3の男ロヴェルを雇う。特殊部隊出身のロヴェルは、.38スペシャルの5連発しか持っていない。しかし「5人以上の敵に同時に襲われないからOKだ」という。彼は、ルイスのモーゼル1932という大型銃を嗤う。

 

 一方輸送用にルイスが選んだのがシトロエン、全て油圧で動く操縦性のいい車だ。つまりオイルが車の血液、漏れれば死に至る。2人は実業家とその秘書を収容してロワール河を遡るのだが、さっそく殺し屋たちが襲って来た。攻撃をかわしながら、わき道にそれ、ルイスは過去にカントンとして知り合ったフランスの人達に助けを求める。

 

 実業家の命を守るロヴェル、実業家を届けることが目標のルイスは、時に反目し合いながら個々のミッションを達成しようとする。後年のスパイ/軍事スリラーほど派手ではないが、読み応えのある冒険小説でした。