新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

新興国29ヵ国の行方

 2023年発表の本書は、比較政治学・国際関係論が専門の東京大学恒川恵市名誉教授の新興国論。多様な切り口と経済指標から、新興国と呼ばれる29ヵ国の経済・政治・軍事を論じたもの。1970年ごろ新興国だったシンガポールや韓国は先進国入りして、今は次の国々が新興国として名乗りを挙げている。この29ヵ国は3つに類型できる。

 

1)天然資源に恵まれている

2)国内市場(人口)が大きい

3)中・高度技術で製造能力が高い

 

 人口や天然資源というポテンシャルがあった国が、産業政策によって発展するケースと、グローバリズムの波に乗って成長したケースが目立つ。主役は、製造業の技術向上を推進力とした国々である(*1)。しかし29ヵ国内の事情や、経済発展度には大きな差もある。例えばロシアは、本来先進国だったはずの国。ソ連崩壊の混乱期にGDPを下げたが、2005年以降は米国を上回る経済成長を遂げた。

 

        

 

 また各国の所得レベルについては、まだ低所得から抜け出せない国も多く、中所得国になったものの「罠」にに掛かっている国も多い。これは、

 

・技術の伸び悩み等で高所得国に入れないうちに

・賃金の安さで追いかけてくる低所得国に市場を食われる

 

 現象である。また経済成長で格差が拡大すると、社会福祉の必要性が高まる。中所得国は、R&D等に注力して高所得国を目指したいが、一方で社会福祉に資源を獲られて中所得国にとどまることも少なくない。

 

 政治体制としては、民主主義・権威主義に分かれるが、民主国家の条件は、

 

・異議申し立ての自由

・政治参加

・少数意見の保護

 

 ができていること。権威主義国家を維持するには、カリスマ・伝統・法の3条件が必要だとある。

 

 また国際関係を考慮に入れると、自由主義的国際主義と国家主義自国主義に分かれ、日本としては前者の国と連係して29ヵ国の少しでも多くを自陣営に引き入れる外交をすべきとある。

 

 ただ日本市民は他国と比較して、国益意識や自国への忠誠が非常に低い。この点が、日本外交や安全保障の最大の弱点なのかもしれませんね。

 

*1:だから先進国は、第二次産業の比率を下げざるを得ない。