新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

一卵性双生児の相続人

 昨日「完全犯罪を狙った奴ら」で、10の実犯罪録を紹介した。その中で多かったのは貧しい(&いかがわしい)男が資産家の女性にすりよって結婚し、妻を殺して遺産を狙うというケース。1975年発表の本書は、それを地で行ったユーモアミステリーである。とはいえ、作者が奇才ドナルド・E・ウェストレイクなので、単純な話ではない。

 

 一応は事業家の顔をしているが、内実は裏社会ともつながっていかがわしい商売をしているのが、アート・ドッジという30歳の男。身なりや風貌はそこそこで、詐欺師もどきの仕事が本業である。今回狙いを付けたのが、先年事故死した大富豪の相続人でリズという美女。しかし話してみると、一卵性双生児でベティという姉妹がいるとわかる。

 

        

 

 まずリズに近づいたアートだが、可能性を広げるために自分も一卵性双生児だと偽って、弟としてベティにも近づく。当然同時に現れることはできないわけで、一人二役のドタバタ騒ぎが始まる。親密さは弟役とベティのペア(?)が早く進み、婚約にまでいたる。しかしリズの財産管理人である弁護士は、アートに「財産目当てではないだろうね。徹底的に調べさせてもらうよ」と言う。

 

 実はリズたち姉妹も、近々結婚していないと莫大な相続税を払わなくてはいけないという問題を抱えていた。ベティはついにアートとの結婚を果たすが、リズは「形式結婚の契約書」をアートに突き付ける。アートは「弟」を残して、自分を消そうと考える。

 

 最後の50ページが怒涛の変化、アートの不倫相手の女が出てきたり、アートの一人二役を見破る男が出てきたりする。そして、結局は「完全犯罪・・・」にあるように、妻殺しに発展するのだが・・・。作者独特の、しゃれた結末が見事です。本来は「犯罪は引きわわない」はずなのですがね。