新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

素人探偵が官憲に認められるには

 1999年発表の本書は、深谷忠記中期の作品。数学者黒江壮と編集者笹谷美緒が真犯人の(主にアリバイ)トリックを暴くシリーズである。警視庁の勝部長刑事らには捜査協力をした実績があり「名探偵」と認識されるコンビだが、地方警察にはなじみがなく一般人扱いなのは当たり前。

 

 しかし作者の作風が、地方の旅情を生かした本格ミステリーだし、特に本書のように「○○・△△殺人ライン」と題するシリーズだと、このコンビは初対面の地元警察と捜査協力をする羽目になる。

 

 適当なタイミングで勝部長が絡んでくれることも多いのだが、それでも何らかの「名探偵振り」をしないと信用してもらえない。あるルポライターのように「警視庁刑事局長の弟!」などという印籠があれば話は早いのだが・・・。

 

 そこで作者としては、壮&美緒を地元警察に紹介するための、ちょっとした謎解きをいつも用意しなくてはいけなくなる。本書では、その辺りがちょっと苦しい。

 

        

 

 長野県諏訪にある製薬会社クラカミは、同族会社。このところ業容を拡大しているが、株式の大半は倉上一族が持っている。社長の秀代は40歳前の美女、創業者の娘で傲慢な女だ。自身は夫と別れ子供もいないので、亡くなった先代の社長である兄の長男肇に後を継がせたいと思っている。しかし社内は専務派と常務派に分かれて暗闘中だ。

 

 夏休みも終わろうという週末、秀代が自身の車のトランクで刺殺体となって発見された。犯人は彼女を別荘で刺殺した後、車に積んでどこかに遺棄しようと公道に出たところ落輪してしまい、自分だけ逃げたらしい。容疑は姻戚にあたる専務と常務にかかるのだが、2人ともその日は箱根で接待ゴルフをしていたというアリバイがあった。壮&美緒は、壮が肇の家庭教師をしていたことから、事件に介入する。

 

 メイントリックはさすがでした。しかし上記で述べたように、中盤で壮が冴えを見せるシーンがとって付けたような感じ。やっぱりこの作品でも「素人探偵の事件への関わり方」は課題でしたね。