新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

武力を使った「平和統一」

 2024年の台湾総統選挙を受けて、その後の台湾海峡の展望を記したのが本書。著者の峯村健司氏は朝日新聞出身のジャーナリスト、現在はキャノングローバル戦略研究所の主任研究員である。以前紹介した「ウクライナ戦争と米中対立」では、インタビュアーを務めていた。

 

 筆者は安倍政権当時、習政権の台湾統一シナリオを総理に直言したという。その結果が「台湾有事は日本有事」との認識となり、発言にいたることになる。習政権の主任務は腐敗の撲滅だが、就任以降「台湾統一は成し遂げる、しかし2期10年では足りない」と三期目を目指していた。それが成った今、三期目中には台湾統一を成し遂げなくてはならない(*1)。

 

 軍の中の超タカ派である劉明福は、米中対立を愛国的に煽る「中国の夢」の著者だが、今は習政権のブレーンとなっている。台湾侵攻は、武力は使うもののなるべく人や施設に被害を与えないハイブリッド戦を企画するとある。

 

        

 

 迎え撃つ台湾だが、最大の懸念材料は米国がどこまでサポートしてくれるかだ。最悪補給物資は送るものの、空母機動部隊はグアム以遠に退避し、在日米軍も動かないかもしれない。そうなれば台湾島だけでなく、八重山諸島から沖縄への侵攻がありうる。自衛隊の戦力や装備が不十分なので、著者はいくつか日本政府に提言している。

 

1)政治家による迅速果断な事態認定

2)国民保護は防衛省任せにしない

3)有事での民間企業の協力体制を整備

4)自衛隊施設の強靭化、自衛官の待遇改善

5)有事に耐えうる通信手段の確保

 

 などで、おおむね納得できる。筆者が言う、一部市民団体の「シェルターなど作れば、戦争に近づく」との主張にはあきれ返るしかない。筆者は習大人の立場に立てば、自衛隊を含む日本の体制整備ができないうちにコトを起こすのが望ましい。遅くともそれは2027年だという。

 

 ただ前提は核戦力を強化しつつある「大国中国」と米国は戦火を交えない(ウクライナに直接派兵しないように)ことを前提としています。今、内政・経済で混迷している状態で、そんな前提で立ち上がるものでしょうか?

 

*1:この理屈は十分理解できなかった。三期目で足がかりを作り、四期目で成し遂げるでも公約違反ではないように思うのだが