新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

テス・モナハン29歳、探偵始めます

 1997年発表の本書は<ボルチモア・サン紙>の記者ローラ・リップマンのデビュー作。第二作「チャームシティ」以降、数々のミステリー賞を受賞しているシリーズ「テス・モナハンもの」のスタートである。DCに隣接したメリーランド州の街ボルチモア。そこでは少数の富裕層が暮らす一方、多くの人達は不況・失業・困窮にあえいでいる。「まるで生きているよう」と評される街自身の描写や、ヒロインを取り巻く人たちの鮮やかな人物像で好評を博したシリーズという。

 

 テスは独身の29歳。勤めていた新聞社が倒産し、2年間失業中。叔母の書店の手伝いなどして、なんとか生き延びている。大柄で毎日ランニングをしてボートをこぐ、スポーツウーマンである。そんな彼女にボート仲間の青年ロックが「婚約者が不審な言動をするから調べて欲しい」と依頼してきた。私立探偵免許があるわけではないが、時給30ドルに釣られた彼女は素人探偵を始める。

 

        

 

 法律事務所に務める婚約者の女性は、万引き癖があり事務所の経営者と不倫しているらしい。テスがロックに報告した後、経営者が殺されロックが容疑者にされてしまった。被害者には多くの容疑者を無罪にした経歴があり、特にレイプ犯を多数「救った」ことで、恨みを買っていた。テスは、車椅子の弁護士ターナーや、元恋人の記者ジョナサンらの協力を得て、真面目一方の男ロックを助けようとする。

 

 そんな彼女に好意を寄せる年下の青年クロウ、こっそり資金を用立ててやる伯父のワインスタイン、叔母キティとその若い恋人サディアスら、登場人物の描写はとてもヴィヴィッドだ。テスの一族や、多くの取り巻きはユダヤ系。長くこの地に暮らしているのだが(WASPらから)偏見も受けるし、総じて貧しい。

 

 450ページを長く感じさせない、読みやすいミステリーでした。このシリーズ4冊買ってあるので楽しみです。