新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

名のみ知られた名作

 中学生のころ本格的にミステリーを読み始めた。ほとんどは翻訳もので、創元推理文庫が多かった。創元社のカタログ様の小冊子があり、題名・作者・区分(本格・サスペンス・ハードボイルド等)・価格・4行ばかりの簡単な内容紹介が1ページに6作品分掲載されていた。

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 それらの中に「絶版」という表示があるものがいくつかあった。要するにどこの書店にもない、ということ。古書店をあたれば巡り合うこともあったかもしれないが、当時はそんな知恵もなく。小冊子の上に買った本をマークして、次に何を買おうか、あの本屋にはこれはあって、あれがない・・・などと楽しんでいた。高校生になり、所蔵の本が200冊を超えるころから「絶版」作品への想いがつのってきた。
 
 あるページの5冊にはマークできたのに、1冊だけ絶版がある。こういうのが一番つらい。そうは言っても入手する手段がない。そんな本のひとつが、ヘレン・マクロイ「幽霊の2/3」だった。奇妙なタイトルで、そのうえ本格推理ものだという。まさに「名のみ知られた名作」だった。
 
 あれから50年近く、古書店でこれを見つけ、即購入。初恋の人に会ったような、といえば大げさだけど買って帰る道が妙にうきうきした気分。そういえば、同じ絶版組のドロシー・L・セイヤーズ「ナイン・テーラーズ」も、しばらく前に買えたなあ、などと考えながら。
 
 これも、前回紹介した87分署シリーズ「殺しの報酬」と同じ、1950年代のアメリカが舞台。出版界の裏側をあばきながら、奇妙な殺人事件を偶然現場に立ち会った精神科医の探偵が解決するというもの。タイトルの意味は・・・興味がある方は探して読んでみてください。