新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

歴史群像大賞の成果

 「戦略・戦術・戦史Magazine」というのが、歴史群像という雑誌のコピーである。戦史マニアのNINJAとしては、非常に興味のある雑誌で実際10年あまり買い続けた。そのうちに「なんとなくワンパターンかな」と思うようになって、最近は買っていないが、バックナンバーは時々読んでいる。


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 出版元である「学研」は歴史群像大賞という企画を通じて、作家の発掘にも努めた。ジャンルは、
 
 ・シミュレーション小説部門
 ・戦記小説部門
 ・歴史時代小説部門 等
 
 で、大賞100万円の賞金が付いていたが、賞金よりも作家デビューの道が啓けるということで多くの応募があった。実際、ここでデビューした作家も多い。富樫倫太郎は、「修羅の跫(あしおと)」で第四回の大賞を受賞して1998年にデビューしている。陰陽師安倍晴明が登場する、歴史ファンタジーだった。
 
 その後、陰陽師源氏物語土方歳三を扱った歴史時代小説から、警察小説までジャンルを拡げている。2011年に発表した「早雲の軍配者」が吉川英治文学賞の候補となった。ある意味作者の最高傑作とも思える本書は、一代で伊豆・相模を奪った梟雄伊勢新九郎北条早雲)が老境に入り、孫の代に役立つ軍配者を育てるという話。
 
 戦国時代の「軍師」というのは良く知られているが、その少し前までは「軍配者」と呼ばれていたと本書にある。どこが違うかというと、作戦参謀の役割のほか、占いの類を行うのが重要なミッションだった。例えば「北方は危険、侵攻するなら東方」などと、ある意味の戦略方針を「お告げ」するというわけ。
 
 歴史群像大賞は最近「大賞受賞作ナシ」が続いて低迷しているが、第四回の富樫倫太郎、第五回の岩井三四二の二人は出身作家としての双璧だと思う。いずれも日本の時代小説を得意としている。応募が多いのもこのジャンルだからだが、第二次大戦などの架空戦記も応募数は多かった。
 
 しかし架空戦記にはバリエーションの余地が少なく、書き始めるのはたやすくても意外な結末には持っていけない恨みがある。その悩みは、太平洋戦争のシミュレーションゲームのデザインと同じである。戦国時代などの日本史ものに、成功した2人がいたことは決して偶然ではない。