新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

オリジナルの007

 007の印象はと問われると、どうしても再三放映された映画を思ってしまう。映画は最新作の「007スペクター」までで24作品。約50年間続いている。しかし、原作者のイアン・フレミングはボンドものの長編を映画の半分12作しか書いていない。彼は1953年に本書「007カジノロワイヤル」でデビュー、1964年に12作目「007号/黄金の銃を持つ男」の推敲中に急逝している。

 

      f:id:nicky-akira:20190416074028p:plain

 
 本書は高校生の時に読んでいて、カードゲーム(バカラ)の緊迫したシーンだけは覚えていた。あらためて読み直してみると、スパイものというよりハードボイルドものではないかと思ってしまった。映画では滅多に弾切れにならない魔法のベレッタを撃ちまくり、おびただしい敵を倒すジェームス・ボンドだが、本書では一度も引き金を引いていない。
 
 正装してカジノに出かける時には、グリップを骨組みだけにしてテープを巻いた25口径の小型拳銃を持っていく。一方クルマのダッシュボードには軍用コルト(45口径)が入っている。グリップまで切り詰めるのは、携帯していてもそれとわからないようにするため。25口径では1発や2発で凶器をもった敵を仕留めるのは難しい。それでも最後の武器として、癇癪玉よりは役にたつ。
 
 コルト45口径は、ダーティ・ハリーで有名な.44マグナムとか.357マグナムが出てくる前には最強だった拳銃。1911年制式の米軍のオフィシャル拳銃で、型は古いがストッピング・パワーは折り紙付きだ。 問題は携帯性が悪いこと。いくら大柄な彼らでも、隠し持つことはできない。このあたりは、リアリティのある選択だ。
 
 主目標のフランス共産党の大物から、賭博でカネを巻き上げる方法にしても仕掛けも何もなく正々堂々勝負している。"Mission Impossible" ならカードに細工したり机にカメラを仕掛けたりするだろう。事件のヤマ場はほぼ2/3くらいのところにあって、その後はラブストーリーかと見間違えるくらい。このようなミッションに嫌気がさしたボンドは、辞職すら口にする。
 
 007ものは、映画と小説のバランスとして「ロシアより愛を込めて」が最高だと思う。12作の長編と24作の映画、その原点が本書であるがここで登場するジェームスは悩める普通の人でしたね。