新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

インテリジェント海賊との闘い(後編)

 この種のシリーズで難しいのは、主人公(アマンダ&カニンガム)により大きく困難なミッションを与え続けないといけないという宿命にある。また主人公も昇進するので、立場が変わってしまうのだ。例えば(オリジナルの)「Star Treck」では、カーク艦長はずっと大佐、スポック副長はずっと中佐だ。

 

 これは、大型艦の艦長は大佐と決まっているからで、昇進して准将になればカークは艦長でなくなってしまうからだ。まあ、のちに映画ではカーク准将が「エンタープライズ」の指揮をとりに戻ってくるシーンがあったが、これは非常事態における例外。

 

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 そんなわけで、アマンダは第一作~二作で「カニンガム」艦長/中佐だったのが、第三作では高速艇戦隊司令/大佐となっていた。本書でも、「カールソン」「カニンガム」の二隻からなる戦隊の司令官である。
 
 もうひとつの難しさは、悪役の設定にある。当然前作よりスケールの大きな悪役が必要で、第三作の西アフリカ某国の独裁者以上のものをクリエイトしないいといけない。そういう意味で「海の王」ハーコナンは、素晴らしい悪役だと思う。ブギス族の荒々しさとオランダ貴族の知性や優雅さを併せ持っており、部下の信頼も厚い。
 
 アマンダの戦隊は、海賊のいくつかの拠点に奇襲をかける。オーストラリア基地から発信するドローンの目と、ステルス艦やステルス艇の前には、ブギス族の勇士も歯が立たない。何度か痛い目にあわされたハーコナンは、反撃に転じアマンダを誘拐することに成功する。
 
 ハーコナンが立てこもる要塞化された湾というのが、第二次世界大戦中に日本軍の工兵隊が作り遺棄したものという設定が面白い。またアマンダを奪われて窮地に立ったマッキンタイア提督が思いつく、常識はずれの戦法もすさまじい。これも第二次世界大戦中、ドイツ占領下のフランスのサン=ナゼール港奇襲作戦にならったもので、「キャンベルタウン」と聞けば戦史に詳しい人ならおおよそは理解できよう。
 
 インドネシア周辺各国にも情報網を巡らせ、最強のサプライチェーンモデルを確立した「海の王」との闘い、とても面白く750ページあっという間に読んでしまいました。