新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

相棒は女子大生

 津村秀介のアリバイ崩しシリーズ、レギュラー探偵はルポライターの浦上伸介である。長編5作目の「山陰殺人事件」でデビューし、以後ほとんどの作品に登場する。彼のことは、「印象の薄い名探偵」として紹介してから何度か取り上げている。

 
 このシリーズ、「弁護士高林鮎子」を主人公にしたTVの2時間ドラマになって、多くが放映された。ドラマ化するにあたって、ルポライター浦上伸介、「毎朝日報」編集長谷田実憲というレギュラーは、弁護士鮎子(真野響子)と弁護士事務所の竹森慎平(橋爪功)に置き換えられてしまった。
 
 これも無理のないところで、酒好き将棋好きくらいが特徴で目立たない独身ルポライターでは映像にしづらい。それだけではなく、小説としても映えないから、ミステリーとしての面白さは優っても、深谷忠記の「黒江壮&笹谷美緒」には主人公の魅力では勝てないと思う。

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 作者もそれは意識していたのだろう、長編13作目「猪苗代湖殺人事件」で、毎朝日報の新人記者小川みゆきを登場させ伸介の補佐させた。彼女がレギュラーの相棒になるのかとも思われたが、結局1作だけの登場で終わった。その結果、30歳代の男二人で酒を飲みながら、将棋を指しながらの捜査談義が続くことになった。
 
 しかし長編27作目の本書で、後半の「相棒」である前野美保が登場する。富岡銀行人事部次長だった父親が自殺に見せかけて殺された事件で、一人娘である美保が伸介に協力して真犯人を追い詰めるのだ。二人の前に立ちはだかるアリバイは九州の大牟田から、博多、小倉、名古屋、浜松、富士にまたがる広大なもので、多くの交通機関が登場する。死体が発見された浜名湖は、東海道新幹線という大動脈が通り、当時はまだ多くの夜行列車も走っていたから、副題にある37時間30分の足取りは膨大な可能性を含んでいる。
 
 20歳の女子大生美保は、細面で清楚な美女だとある。多分作者の好みなのだろう。30歳代ながらオヤジ臭い2人に、美保が加わって「華」ができたこのシリーズ、伸介と美保の掛け合いも含めて期待しましょう。