新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

5人のコンサルタント

 富裕な奥さんと結婚したため、一時は医学の道を歩みながらも医師になることなく金銭的には不自由なく暮らす中年男ティム。彼の悩みは、奥さんの不倫とその相手が親友のブレイゼスであること。一方世間のニュース、特に殺人のニュースを見ても組織犯罪によるものだったり衝動的な殺人だったりして芸術性を見いだせないと不満を持っている。
 

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 そこでティムは、当代の有名なミステリー作家5人に依頼状を送ることにした。依頼内容は、
 
 ・妻を殺し、その罪をブレイゼスに着せること。
  (もちろんティムは有罪にならない)
 ・芸術性のある手口であること。
 
 ができるようなプランを示してほしいというものだった。当然(富裕なのだから)応分の御礼はすると書き添えて。
 
 これに対し、5人のミステリー作家は魅力的な殺人方法について提案する書簡を送り返してきた。しかしティムは5つの返事に満足せず、5人を競争させるような追加の手紙を送り、5人の作家はお互いのプランをけなし始める。
 
 本書は、犯罪を企む男に対して5人のコンサルタントが提案する「完全犯罪」の手口の競演を描いた異色作である。5人の提案は、
 
 まず死んだ人の出生証明書から「別人格」を作り、住所・クレジットカード等を作ったうえで自らと交流する。その人物をアリバイの証人にして、妻を射殺、親友に銃を握らせて逃走する。
 
 ブレイゼスの仕業に見せかけて、自宅に海の生物を送り付ける。クジラの模型や熱帯魚などを延々送った後、水産試験場から持ち出したアンドンクラゲ(有毒)によって妻を浴場で毒殺する。
 
◆トニイ・ヒラーマン
 インディアンから伝わるキノコの毒で妻を毒殺した後、妻といさかいを起こしたふりをし「妻を誤って溺死させてしまった」と届け出る。死因が溺死ではないとわかって、官憲の目はテイムからそれる。
 
◆サラ・コードウェル
 妻とブレイゼスを伴ってエジンバラの祭りにでかけ、仮装行列に加わる。スコットランドの扮装で普通にもつ短剣は本物。ブレイゼスの指紋を付けた短剣で妻を殺す。
 
◆ロバート・ブロック
 まず、妻とブレイゼスの逢引現場から男の体毛を入手する。娼婦等を切り刻んで殺す連続殺人を起こし、その現場にブレイゼスの体毛を落としていく。最後に妻を切り刻み、同じように体毛を残す。
 
 面白い趣向の合作でした。後半の5人のコンサルタントが互いをなじる部分には笑ってしまいました。日本でもやってみる編集者がいればいいと思いますが、作家に協力してもらえるかどうかは分かりません。でも本当の完全犯罪とは、犯罪があったことを気取られないことだと思います。
 
 ティムが「親友に罪を着せる」という条件をつけるからいけないのですが、僕なら「罪を着せることはあきらめて、犯罪と気取られずにつまを消し遺産を手に入れた方がいい」とアドバイスするでしょう。6人目のコンサルタントとして。