新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

正統派大人のミステリー

 D・M・ディヴァインは、生涯で13作のミステリーを残した。そのほとんどは日本でも出版されたが、今では手に入らないものもあり僕は本書でようやく過半数、7作目を読むことができた。以前12番目の作品「跡形なく沈む」を紹介しているが、これぞイギリスの本格ミステリーだと思ったものだ。


        f:id:nicky-akira:20190428122620p:plain

 
 本書は、1962年発表のディヴァインの第二作。デビュー作の「兄の殺人者」(1961年発表)は若い弁護士を主人公にしたもので、ミステリーの女王アガサ・クリスティが高く評価したと伝えられる。それに力を得て書いた本書の主人公は、若い医師アラン・ターナースコットランドの田舎町シルブリッジで病院を経営している。2ヵ月前に経営者の医師が死んだことで、共同経営者からNo.1の地位に就いている。
 
 彼は病院の看護婦と婚約中だが、死亡した医師の美しすぎる後妻との仲を疑われている。閉鎖的な田舎町の上に、登場人物の多くが親戚/姻戚関係にあり、アランは婚約者の親戚でもある市長から疑われ、「社会的に葬ることも出来る」と脅される。
 
 当初事故死とされた医師の死因だが殺人ではなかったかとの疑惑が出てきて、状況から容疑者は後妻とアランのいずれかだと思われる。事件の夜、医師夫妻と夕食を共にしたのがアランだったからだ。彼は疑惑をはらすべく、素人探偵を始める。
 
 秋も深まるスコットランドを舞台に、静かなサスペンスをはらんでゆっくりと物語が進む。アランが友人のマンロー警部補とゴルフをしながら事件の分析をするシーンが印象的だ。そんな中、医師に最後に会ったと思われる少年が死体で見つかり、連続殺人の疑いが濃くなった。マンロー警部補は事件を冷静に分析し、容疑者を6~7人に絞り込んだという。2つの事件のいずれもにアリバイがないのは誰かという捜査が進むが、アランは市長の一言で真相をつかむ。
 
 派手なアクションもなく、ケレン味たっぷりな名探偵も出てこない。田舎町の日常に突然起きた殺人事件を巡って普通の人たちが猜疑の目を向けあうさまを、ディヴァインは丹念に描いていく。本当に上手い「小説家」だと思うのですが、寡作でシリーズものを残してくれなかったのが残念です。