新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

予想できなかった歴史

 本書はアイザック・アシモフの「銀河帝国興亡史」の第二作。巨大な帝国の衰退を予知した歴史心理学者ハリ・セルダンは、帝国崩壊後の暗黒時代を短くするため2つのファウンデーション(百科事典財団)を辺境に設けた。第一作は第一ファウンデーションが誕生から200年を経て、周辺宙域を従えて一つの勢力となったところまでだった。

 

 本書では帝国はさらに衰退、第一ファウンデーションは帝国の1/3程度の大きさにまで成長している。ほぼ狂人と思われる皇帝は全く治世を顧みないが、官僚・軍人の中には帝国復活を目指してファウンデーションを攻撃するよう画策するものもいた。

 

 セルダンはもちろん死んでいるのだが、ファウンデーションの危機に当たっては生前収録したビデオで市民の前に登場し、対処の方向性を示してきた。彼はファウンデーションと帝国の行方について、正確な計算(心理歴史学上の数学!)をしていたのだ。

 

        f:id:nicky-akira:20191120220331j:plain

 

 ところがここに、セルダンも予想できなかった事態が発生する。ファウンデーションの片隅に生まれた孤児が、成長するにつけ「勢力」となってきたのだ。彼を討伐しようとしたファウンデーション軍は多くが裏切り、彼ミュールの指揮下に入ってしまう。ミュールの情報は、彼の奴隷同然だった道化師らから得るしかない。やがてミュールは突然変異種(ミュータント)ではないかとの説が有力になる。

 

 しかしついにミュールは第一ファウンデーションをほぼ呑み込んで、帝国と対峙するようになる。ミュールには、精神感応によって相手を自由に操る能力があったのだ。そんなミュールにも不安があった。セルダンが仕掛けたもう一つのファウンデーションはどこにあるのか・・・。

 

 SF作家ながらミステリーの「意外性」が大好きなアシモフ、本編でも隅々にミステリー手法を盛り込んでいる。一方で文明史に学んだと思われる、為政者のおごり、硬直した官僚組織、抜け穴を探す悪漢などが王朝をむしばむ姿が生々しい。巨大な組織も巨大ゆえにもろく、自らの重みであっけなく瓦解する。アイロニーに満ちたエピソードをユーモラスに連ねている。この作者、相当の皮肉屋でしょうね。あと1冊で完結です。