新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

名探偵ジョージ・ポーファイラス

 ・・・といっても、かなりのミステリーマニアでも「ああ、あいつね」と答えられる人は少ないだろう。以前「猿きたりなば」を紹介しているが、その作品で日本に最初に紹介されたのがジョージ君である。作者は英国でアガサ・クリスティーの後継者の一人とされる、エリザベス・フェラーズ。1941年という、欧州戦線で英国がナチス・ドイツと孤立無援の戦いをしていたころの作品。

 

 ジョージ君が名前を知られていないことには、理由がある。登場人物の紹介欄に、

 

 トビー・ダイク  犯罪ジャーナリスト

 ジョージ  トビーの親友

 

 と紹介され苗字は明かされないし、デビュー作「その死者の名は」で二度ポーファイラスとでてくるだけだ。また、長身でスマートな口達者であるトビー君に比べ、ジョージ青年は丸ぽちゃ、小柄、服装もあか抜けない。誰が見ても、「トビーがホームズ、ジョージはワトソン」と思うはずだ。

 

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 今回の事件は、田舎町の植物標本館館長が雨の夜に身投げをしようとして、トビーらに取り押さえられるところから始まる。館長は、トビーらによって娘たちが心配している家に送り届けられる。ところが翌朝標本館に出勤した館長は、館内で射殺体となって発見される。凶器の拳銃は死体のそばにあるのだが、自殺にしては拳銃についている指紋の位置がおかしい。他の指紋が全くないことから、射殺犯が指紋を拭き消した後死体の指を引き金にあてた可能性もある。

 

 館長からクビを言い渡された秘書、その恋人でもある標本館の研究員、館長の娘と恋仲だが館長と激しい口論をした研究員、うさんくさい(自殺)心理学を説く博士、娘の後見人たる大男など、怪しげな人間が続々出てくる。ティンギー警部と張り合いながら素人探偵の二人は、事件の解決を目指すのだが・・・。

 

 約300ページのうち、最後の20ページ以外ではトビーの推理がもっともらしく思える。その間、ジョージは妙なもの(植物のサヤ)にこだわったり、館長の娘の部屋を漁っていて逃げ出したり、意味の分からないことばかりしている。ところが最後に容疑者を取り押さえたのはジョージだし、ロンドンに戻ってからさらにそのウラにある真相を暴くのもジョージである。

 

 本格ミステリーとして読むと馬鹿にされたようにも感じますが、ユーモアミステリーとして作者の稚気を楽しむならいいと思います。