本書は、ご存じE・S・ガードナーのペリー・メイスンものの1冊。解説には、1940年代の代表作だとある(1949年発表)。このシリーズは1933年の「ビロードの爪」に始まり、作者の死後の1976年まで合計82作品が出版され、その多くが邦訳されている。
ある夜、秘書のデラを先に帰し「残業」していたメイスンは、オフィスの外の非常階段に隠れるようにしている若い娘を見つける。彼女の手にリボルバーのようなものを見た彼は、娘を取り押さえるが拳銃は発見できなかった。詰問するメイスンに娘は、1フロア上の<ガーヴィン鉱物資源調査開発会社>の社員だという。
結局彼女には逃げられてしまったのだが、翌朝はその会社の実質的なオーナーであるガーヴィンが訪ねてくる。彼は妻ロレインと結婚したばかりだが、先妻エセルとの関係で揉めているという。ガーヴィンはエセルと別居し、メキシコに渡ってそこの裁判所で離婚を獲得、やはりメキシコでロレインと結婚していた。しかしエセルは離婚を認めないので、メイスンに調停して欲しいという。
珍しく民事の依頼を受けたメイスンは、ポール・ドレイク探偵事務所に連絡しエセルのいどころを調べさせる。ポールには昨夜の娘の正体も探らせている。エセルの住居はすぐわかりメイスンは訪ねていくのだが、エセルは強硬。説得にもディールにも応じず、重婚罪で告発するという。本気だと思ったメイスンは、ガーヴィン夫妻を連れてサンディエゴからメキシコに渡る。
米国では重婚なのだが、メキシコでは離婚が認められているので重婚罪は成立しない。ところがその夜、ポールの部下が目を離したすきにエセルが行方をくらまし、翌朝射殺体で見つかった。どうも、非常階段の娘が持っていた拳銃で殺されたらしい。やがて捜査の手はガーヴィンに伸び、カリフォルニア警察の奸計にかかった彼は米国国境で逮捕されてしまう。メキシコに彼を匿っているうちに、真犯人を見つけようとしたメイスンの思惑は外れ、準備不足のまま弁護の法廷に立つことになる。
最近デジタル関係の法規に「域外適用:自国の中にサーバーや事業者がいなくても取り締まれること」が増えていますが、当時はまだそんなものはありません。国境ってある意味便利なモノですね。本件、解説にある通りメイスンものの中でも傑作の部に入ると思います。依頼人の嘘で窮地に立ったメイスン一家が、鮮やかな逆転劇を見せてくれます。