新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「シャレード」のドレス

 本書は、以前紹介した「花の棺」でデビューした名探偵キャサリンものの第三作。山村美紗の作風は、複数の事件を起こし複数のトリックを組み合わせて、物語の中盤でも謎解きを示して進めていく本格ミステリーである。本書の解説を「本格の鬼」である鮎川哲也が書いていて、作者のことをトリックの名手で「日本のロジャー・スカーレット」だと持ち上げている。

 

 本書のテーマは、人工皮革を開発している日本の2大繊維メーカーの企業競争である。人工皮革「シャレード」の開発で一歩先んじたN社は、新進デザイナーマリコと契約して新しいファッションを生み出してゆく。その中にはウェディングドレスもあった。後れを取ったT社は「エレーヌ」という人工皮革を生み出し、有名デザイナー千花の落ち着いたデザインで巻き返しを図る。

 

 そんな中、「シャレード」のウェディングドレスを着た首相の娘が密室で「炎上」、死亡してしまう。理論上はもちろん度重なる実験でも燃え上がらなかった「シャレード」が激しく燃えた謎が読者に突き付けられる。ウェディングドレス炎上は2度起き、N社の評判も株価もガタ落ちになってしまう。

 

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 これらの事故と見られた2件の焼死は、キャサリンの慧眼で「密室殺人」だったことが証明される。このあたり、トリックの使い手山村美紗の真骨頂である。今度は疑われるのは、T社の方である。キャサリンらがT社の幹部を疑って見張っていると、その幹部も殺されてしまった。

 

 スピーディなのはいいのだが、ウェディングドレスで焼死する2件の前にも、ファッションモデル2人が殺されていて、350ページの中で7人が死んでしまう。確かにミステリーは「作り物」なのだが、戦争ものやバイオレンスアクションものでもないのに、50ページに1人死ぬというのはちょっとやりすぎではなかろうか。

 

 「花の棺」のコメントでも書いたように、これだけ事件が続くと解決に向けたサスペンスが失われてしまうのだ。また犠牲者の一人に現職首相の娘を持ってくるというのも、現実味を失わせる要素になっているように思う。作者のトリックを楽しむ姿勢は買うのだが、いかにも作り話に見えるうらみがある。

 

 不燃性のウェディングドレスが燃え上がるトリックは間違えたのですが、その他の仕掛けは(3つほどあって)全部分かりました。まあ、キャサリンものはトリック本だと思って読むのがいいのかもしれません。