新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

美保たちの長崎旅行

 「週刊広場」のアルバイトで、浦上伸介のアシスタントを務める前野美保は明聖女子大の4年生。銀行員だった父親が殺害された事件で、伸介と共に犯人を追い詰めた。それから20以上の事件で伸介の相棒として、時刻表をひっくり返している。・・・ただずっと大学4年生、21歳のままだが。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/09/28/000000

 

 本書では美保が大学の同級生2人(真里と節子)を誘って、雲仙からハウステンボスを巡る二泊三日の旅行に出掛けるところから始まる。新横浜から福岡に直行する「のぞみ」、諫早までのL特急、雲仙の和風旅館、ハウステンボス、そして帰路の特急や新幹線は全部美保が手配した。彼女たちは博多駅での乗り換えの時、骨壺を持った50歳代の紳士に出会う。

 

 その紳士とは雲仙のホテルでも一緒になり、ハウステンボスでは隣同士の部屋になった。雲仙の「地獄」や長崎市内観光、極めつけはハウステンボスでのアトラクションに満足した美保たちは、この紳士と会話を交わすまでにはなるが、お互い名乗らずに別れた。

 

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 一方、美保たちがハウステンボスに宿泊した夜、宇都宮で警備員の男が刺殺され、翌朝宇都宮発の始発電車で運転手をしている男が毒殺された。どちらも最近今の勤め先に雇われていて、片方は離婚片方は別居していること、以前はいい稼ぎをしていてその分金遣いが荒かったことくらいが共通点だった。

 

 一見何の関係もなさそうな2つの事件、実は2人の被害者は半年前、神田の「竜野企画」という会社が1億2千万円を奪われた時の経理マンと運転手だったことが分かる。2人は事件のあと前後して「竜野企画」を辞め、カネは見つかっていない。本件を追いかけ始めた伸介・美保・谷田実憲は、思わぬ容疑者とそのアリバイに遭遇する。

 

 冒頭の女子大生トリオ旅行と、終盤のアリバイ調査で美保は2度ハウステンボスを訪れることになる。僕はハウステンボスこそ行ったことがないけれど、大村湾に浮かぶ長崎空港は何度か利用している。だから、今回もアリバイトリックは分かった。

 

 本書はもちろん伸介たちのアリバイ崩しものなのだが、作者の長い事件記者経験から得られる「事件の背景設定」は非常にリアル。あと10冊ばかりになってしまったこのシリーズ。大事に読んでいきたいです。