新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

温故知新のサラリーマン論

 「梟の城」で直木賞を獲り「竜馬がゆく」などの大作で知られる作家司馬遼太郎は、戦後いくつかの新聞社で記者をしていた。30歳を過ぎたら作家になろうと考え、文章修行をしたのがこの時代。新聞記者はプロフェッショナルだが、サラリーマンでもある。若い大家の目に写ったサラリーマンの世界の課題、本書はそれをテーマに本名で書いた(1956年)文書を文春新書が再発行したものだ。

 

 出世争いや内部闘争、定年問題、社宅でのつきあい、盆暮れの届け物、困った上司、一匹狼社員などをテーマに、歴史上の人物の一言を引用してまとめたエッセイ集である。ここで描かれるサラリーマンの生態は、温故知新というべきだろう、2/3世紀経っても古さを感じさせない。

 

        

 

 冒頭「鎌倉殿の13人」で準主役だった、大江広元の話が出てくる。関東武士ではないが鎌倉幕府で徐々に重要度を増していった人物で、数々の政敵を誅しながら自らの手は一切汚さず、憎まれることも少なかった。筆者は、畳の上で往生した彼を「最初のサラリーマン」と呼ぶ。

 

 戦国時代に名をはせた武将たちも、太平の世になるとサラリーマン化した。お家大事、無理無体ごもっともと言って安寧を図るのが「侍」。仇討ちも家名(&知行)の回復が目的で、決して復讐ではない。そうまで飼いならされた「侍」が、現在のサラリーマンの先祖だという。

 

 続いて「サラリーマンとは職業なのか」と筆者は問う。会社の都合で今日は営業職、明日は総務職と移ろい専門を持たず言われるまま。エジソンの「1日も仕事はしていない。楽しむのみ」という心境にはどれほどのサラリーマンが到達できるかと、筆者は嘆いている。サラリーマンの世界は「湿地帯」だともある。陰湿な悪口や蔑み、差別化したい気持ちが渦巻いている。これも閉じられた世界ゆえだ。

 

 レベルの差こそあれ、僕も全く同感でしたね。僕が生まれた年に刊行された書、再版してくれた出版社に感謝です。