新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

隠れた冒険小説の大家

 コリン・フォーブズという作者の本を、手に取ったのは初めて。タンカーと救難ヘリのイラストに「黄金猿の年」というタイトル。創元推理文庫の中では「スリラー・サスペンス」に区分されていて、紹介文も裏表紙には無く目立たない本だ。

 

 創元社の文庫は、あまりバイオレンス系の小説は得意ではないと思う。「ハードボイルド」に区分したり、本書のように「スリラー・サスペンス」にしたりする。それでも表紙見開きの紹介文に「優れた冒険小説家」とあるので、なんとなく買ってきた。巻末の解説によると、複数のペンネームで1ダースほどの作品があり、多くは映画化権が買い取られているという。ただ日本では本書のほか「氷雪のゼルヴォス」が紹介されているだけらしい。「ナヴァロンの要塞」などで知られる冒険小説家アリステア・マクリーンに匹敵するということなので、楽しみにして読み始めた。

 

 本書の発表は1974年、まだソ連が意気軒昂で中東産油国の発言力が強かったころ。サウジアラビアに対イスラエル強硬派の政権が誕生、イスラエルを支援するなら西側諸国へ原油を売らないと輸出量を50%に削減した。エジプトその他もイスラエルへの攻勢準備を始めるのだが、サウジの大臣タファクは米国を黙らせる作戦を別途遂行中だった。

 

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 彼はフランス・アラブ混血の残忍なテロリストルキャと、英国人の冒険家ウィンターを雇って5万トン級タンカーのハイジャックを計画していたのだ。作戦能力の高いウィンターは、着実に情報を集め自らの臭跡を消しち密な計画を立てる。しかしウィンターのフェアな姿勢(人質は殺さない)に十分信頼を置いていないタファクは、ルキャに命じて核爆弾を作らせていた。これをタンカーに積んでサンフランシスコ市に突入させるつもりだ。この「切り札」は、ウィンターも知らないこと。

 

 これにロイド保険会社の調査員サリヴァン、ハイジャックされるタンカーの船長マッケイなど、英国風の凛とした紳士たちがからんで、物語はサンフランシスコ湾のクライマックスまで一直線に進む。さすがにマクリーンをしのぐ・・・とまではいきませんが、なかなかのパニック小説(当時こういう言葉あったかな?)ぶりです。日本にあまり紹介されないうちに、トム・クランシーなどが出てきてしまったのかもしれません。