本書(1980年発表)は、作者のバリー・リードのデビュー作。作者自身ボストンの弁護士で、1978年に医療過誤事件で彼の弁護事務所は「580万ドルの賠償を支払え」との評決を勝ち取っている。本書はその事件など作者が体験した事件や法廷闘争をベースに構築されたフィクションである。
舞台はボストン、4年前に聖キャサリン病院の産婦人科でデボラと言う妊婦が出産しようとして植物状態になった。4年間に彼女は病院のベッドを離れることもできず、やせ細ってしまった。彼女の入院費を払い2人の子供をちゃんと養育するため、彼女の後援者は聖キャサリン病院から賠償金を得ようとする。
原告代理人に選ばれたのは、60歳に近いのだが経験はそれほどでもない弁護士フランク。彼にとっても、妻子と疎遠になり中国系の愛人と酒に溺れた日々からの復活を期す重要な事件だ。しかしカトリック教会の強大な権力を背景にした病院側は、高名な弁護士コンキャノンに法曹界の組織的なバックアックもつけて万全の体制を整えていた。
フランクはかつて先輩として導いてくれた老弁護士カッツの助けも得て、強大な敵に挑む。しかし被告側は女弁護士をフランクの身辺に近づけ、どんな戦術をとってくるかを探ることまでする。デボラはたっぷり食事をした後に産気づいて麻酔をかけられ、全身麻酔に伴う酸素マスクの中に食事を吐き窒息した。これが脳死に至る直接原因だが、全身麻酔の是非が最大の争点になる。
病院の執刀医、麻酔医にコンキャノンが証言シミュレーションをする場面が印象深い。「もっとゆっくり、丁寧に。陪審員は高卒クラスが多い。専門用語は厳に慎んで」と繰り返し練習させる。一方フランクが選んだ鑑定人は、ニューヨークの老開業医だがジャマイカ出身の黒人。コンキャノンは「これで勝った」とつぶやく。1980年のボストンでの黒人の信用を物語る強烈なエピソードで、「Black Lives Matter」の意味がよく分かる。しかしフランクはもう一人、とっておきの証人を用意していた。
本書は「12人の怒れる男」などで有名なルメット監督の手で、1982年に映画化された。フランクを名優ポール・ニューマンが演じている。映画を見たことはありませんが、迫力に満ちた法廷闘争、熱い最終弁論と論告、映像で見たような気分にさせてくれる傑作だと思います。