2014年発表の本書は、その前年起きた「食品偽装事件」を扱っているものの、著者はそのインパクトで書いたものではないという。バナメイエビを車海老と称していたことなど、この業界には一杯あるというのだ。それよりも高級店と称する店のいくらかが堕落しきっていること、堕落したのは客の方にも責任があることが問題だと筆者は言う。いわゆるグルメサイトでの評価を偽装する方法があることも、昨今は課題の一つになっているらしい。
筆者は他に本業を持ちながら、覆面・自腹でレストランを訪問し辛口評論を続けている人。いくつかの店には忌み嫌われ、脅迫を受けたことも、名誉棄損訴訟を受けたこともある。覆面なのに業界では正体がバレていて(手配書が回っているのか)、入店お断りを食うことも多いらしい。
まず取り上げられているのは、グルメサイトの点数を左右できるプロモーターの存在。各サイトの評価アルゴリズムを知っていて、誰がどういう評価をするのが点数操作に効果的かをレストラン側に教えている。多分評価者にも何らかのアドバイスをして、リターンが増えるように指導しているのだろう。
インターネット以前からレストラン側の「誇大広告・産地偽装」などはあるし、天然ものなどそんなに数が採れるはずもない。養殖も天然も、結局は食べて美味ければいいはずと筆者は言う。だいいち、天然アユなどはいいとしても、天然牛など食べないだろうと・・・。
志の高い高級店を劣化させるものとしての客だが、一見客・下戸など本来はその店に来るべきではない客を挙げている。日本は平等思想なので仕方ないが、英国の高級レストランなどは英国の階級社会に合わせて運営されているもの。基本的には常連客と彼らが招待する同程度の階層の人で、店は成り立つ。また店の売り上げの半分ほどを占めるお酒は、ほとんどの客がたしなむ。
筆者は、和食・イタリアン・フレンチ・中華・鮨店のシェフにインタビューをして、昨今のレストランを巡る諸課題を聞いている。この問答も面白いのだが、京都・名古屋・大阪のレストラン事情の比較が興味を惹いた。
・京都 観光客向け京料理の店というのは、大半京都にルーツがない。
・名古屋 ワイン持ち込みを1ダース送付された。持ち込みNGにしたら誰も来ない。
・大阪 味は関係ない、量とノリで勝負。性悪店主の店ほどはやる。
この覆面辛口評論家、今でも執筆続けておられるのでしょうかね?