新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

AI探偵「ゼニガタ」

 本書は1984年に「小説現代」に連載された、内田康夫の短編を8編集めたもの。主人公は世界に一台しかない犯罪捜査用のパソコン(今様に行けばAI)である「ゼニガタ」と、それを使う探偵事務所長鴨田英作である。

 

 作者は1980年に「死者の木霊」でデビューするが、後年レギュラー探偵として定着する浅見光彦は第3作「後鳥羽伝説殺人事件」に登場するも、まだいろいろなトライアルをしていたころ、本書のようなシチュエーションを試したみたのだと思う。

 

 180cm・90kgを超える偉丈夫である鴨田だが知能の方はイマイチ、後に「ゼニガタ」からIQ80と判定されている。高校時代にウラナリの天才たちをチンピラの脅しから救ってやったことが縁で、大人になって探偵事務所を開くと、

 

・科捜研の警視

・電機メーカーのコンピュータ技術者

・同心理学者(今でいうAI技術者)

 

 の協力を得て「ゼニガタ」を使えるようになる。「ゼニガタ」には犯罪捜査に関する多くのデータが収められているだけではなく、音声認識機能もあって鴨田の言葉を理解できる。ただ出力はディスプレイとプリンタに文字で行うだけだけれど、興奮してくると河内弁が混じるという変わり者。

 

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 最初の事件で鴨田や天才たちと同級生だったマドンナ由美が関わる事件を解決し、鴨田の探偵事務所には由美が協力者としてやってくる。事務所には若い事務員比呂子もいるので、レギュラーは鴨田、天才たち、由美、比呂子と「ゼニガタ」。1編35ページほどで、作風としてはユーモアミステリー。時節柄の話題も取り入れていて、

 

・四塚トットスクール

・田中角兵衛軍団

積木くずし

 

 などの言葉が並んでいる。最後の1編には、怪盗パソコン「ゴエモン」が登場し、「ゼニガタ」と対峙する。若干のお色気話も混ぜながら、持ち込まれるもしくは巻き込まれる事件を、鴨田は「ゼニガタ」の助けを借りて解決してゆくことになる。

 

 当時はまだWindowsも出ていない、MS-DOSの時代。PCは文字で人間とコミュニケーションをとるしかなかった。そこにマルチメディアの可能性を見て、このような「探偵役」を設定したことに、先見性はあったと思う。しかし8編の後の作品は出ていないようで、習作で終わったものと思われる。

 

 巨匠もデビューから数年は、苦しんでおられたという事でしょうね。