新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

5人の亀取二郎

 本書は「本格の鬼」鮎川哲也の、鬼貫警部ものの長編。作者の長編は、以前発表したものに手を入れて再発表するものがいくつかあるが、これもその1編。1979年に「王」と題して「野生時代」に発表したものに加筆し、「王を探せ」と改題して1987年にカドカワノベルズで再発刊したもの。

 

 改題した理由は、旧題だと巨人軍の王選手のことだと思う読者が多かったからと、作者自身が言っている。ただ僕の感想では、これでも作品内容からは遠いような気がする。

 

 それはともかく、作者は本書で面白い挑戦をしている。それは冒頭犯人の独白で始まり、その名前も明らかになっている。しかし決して倒叙ものではなく、犯人探し・アリバイ崩しの本格ものという設定にある。

 

 亀取二郎と言う中年男は、伊豆半島で幼い少女を車でハネて殺してしまい。こっそり埋めたのだがそれを木牟田という男に見られてしまった。以降2年に渡って強請られてきたのだが、亀取はついに木牟田を殺す決意を固める。完璧なアリバイ工作をして・・・。

 

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 木牟田が殴り殺された事件は、鬼貫警部以下の刑事たちが担当することになった。現場から立ち去る男の目撃証言もあり、被害者の手帳に「正午、亀取二郎と会う」とあったことから、容疑者の名前が割れた。刑事たちは都内と近県の「亀取・・・」を探すと、40人ほどいることが分かった。

 

 目撃者の証言に近い背格好・年齢層で絞り込んでいくと、対象は4人。その後芸名に絡んでこの名前だったことが分かった人も入れて5人になり、刑事たちは容疑者の聴取にあたる。5人の職業は、雑誌の編集者・室内装飾家・旅行作家・貿易会社員・俳優。いずれも鉄壁と思えるアリバイを持っていた。

 

 足を使ってウラを取り、少しの疑問でも追求し続ける刑事群像が描かれるが、丹那刑事以外は名前が出てこない。沖縄出身の、背の高い、はったりのうまいなどと書かれている。彼らの集めた証言や物証(例によってカメラ・ネガ・プリント等)を前に、鬼貫警部は一つの仮説を語るのだが・・・。

 

 題名の「王」は、第二の殺人現場に残されていたダイイングメッセージ。言葉に拘る作者だから・・・と入れ込んで見たものの、今回の推理は空振り。犯人の目星は付くものの、2重のアリバイは崩せませんでした。ちょっと残念。でも本当にこんな珍しい名前、40人もいるんでしょうか?