新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

米国有権者の変遷と選挙戦略

 2020年発表の本書は、日経新聞論説&編集委員である大石格氏の米国選挙事情レポート。トランプ再選なるかという同年秋の大統領選挙に向けて、選挙民がどう変わっているかと<ストラテジスト>と呼ばれる選挙参謀の仕事ぶりを紹介している。

 

 選挙民そのものがどう変わって来たかについて、最終章にスポーツや音楽の好みの分析がある。スポーツの分析が面白かった。何が好きかとのアンケート(2017年)では、

 

フットボール 37%

バスケットボール 11%

野球 9%

サッカー 7%

 

 となっていて、野球の落ち込みが激しい。一時期多かった黒人選手もほとんどいなくなり、運動能力の高い黒人はよりカネのかからないバスケットボール選手を目指す。サッカー人気が急増しているが、ファンはヒスパニックだ。白人の多くはフットボールを好む。

 

        

 

 要するに黒人も白人も増えておらず、ヒスパニック人口が増えているのが現状。経済格差ははっきりしていて、都会のビルの例ではオフィスワーカーは白人、警備員は黒人、清掃員がヒスパニックというわけ。

 

 貧困層のヒスパニック、先輩有色人種の黒人は民主党寄りなので、共和党の危機感は大きい。移民に反対し「メキシコ国境に壁を作り、費用はメキシコに出させる」と叫んだトランプ候補に支持が集まった理由のひとつだ。

 

 どんな候補でも選挙は「勝てば官軍」なので選挙参謀の存在意義は大きい。白人票の何%を固め、ヒスパニックから何%取れば勝てる・・・などと細かな分析をする。イメージ戦術も重要で、

 

・ブッシュ(子)は、アル中だったが「神が救ってくれた」と英雄譚にした

・政治のプロだったニクソンの失脚時、政治経験不足のカーターを「普通の人」と売り込んだ

 

 など面白い例が示されていた。実は大統領選挙より重要なのが、永年勤続する最高裁判事の人事。オバマ政権8年間の無策で、共和党推薦判事ばかりになってしまったとある。これが今、中絶禁止判決などで米国を揺るがす原因になったわけだ。

 

 選挙区をいじる「ゲリマンダー」のプロも紹介された、面白い選挙事情紹介でした。この国では選挙も戦争なのですね。