新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

リカーディアン団体の勉強会

 昨日「時の娘」を紹介したが、1974年発表の本書はそれをオマージュした作品。テューダー朝ヘンリー7世やトマス・モア、シェイクスピアらによって構築されたリチャード3世の冤罪は、20世紀後半には晴らされつつあった。本書は、舞台をリチャードを信奉する「リカーディアン団体」の勉強会に置いている。作者のエリザベス・ピーターズはエジプト考古学者。

 

 図書館司書で古文書に詳しいジャクリーンは、カーター教授に誘われて勉強会に参加することになった。新たに発見された文書の真贋判定のためである。場所はリカーディアン団体の長サー・リチャードの大邸宅、団体員はリチャード3世に因縁深い人物に扮装して参加する。教授はクラレンス公ジョージの役割、サー・リチャードはもちろん3世を演じる。サー・リチャード邸の雰囲気含めて、仮装の道具立てなどの描写は細かい。

 

        

 

 勉強会と言っても、要するに宴会。15世紀当時の貴族の食事を模して、白鳥や鹿の料理を食べワインを呑むのが主目的。ところが何者かが跋扈し、参加者が襲われ始める。斬首されたヘイスティングズ卿役の側には生首の模型が置かれ、窒息死させられたエドワード5世役の傍らには枕が、カーター教授も空のワイン樽に吊るされてしまった。クラレンス公はワインで溺死させられたという。

 

 反リカーディアン派の学者が乱入してくるなどのドタバタ騒ぎ(ファース)もあって、勉強会は全く進まない(されど踊る・・・)。ジャクリーンはようやく犯人が誰かを知るのだが、その目的が読み切れない。

 

 「時の娘」を読んでいなかったら、リチャード3世を巡る歴史だけで頭がくらくらしそうな物語。英国人にとっては、日本人の「織田・豊臣・徳川史」くらいにポピュラーな話題ゆえ、省略も多く議論が飛ぶ。事件解決の鍵は原題(The Murders of RichardⅢ)のMurdersにあるのですが、これは日本人には分かりませんね。とりあえず、英国史の勉強にはなりましたが。