1934年発表の本書は、昨年「陸橋殺人事件」を紹介した、英国カトリック教会最高位のロナルド・A・ノックス師が遺した5作目の長編ミステリー。作者は生涯6作品しか書かなったが、聖職者が本業だったから仕方あるまい。作風はフェアな本格ミステリーで自らの「ノックスの十戒」を遵守したものだ。
本書の解決編の前には、「読者の推測は果たして当たっていたか?」という1節がある。それ以降探偵役の語る推理には、何度も(○○ページ)と伏線が張ってあったことを示す記述がある。
今回の舞台はスコットランド、グラスゴーやパースといった都会からは離れた町で、鉄道の本数も少なく自動車の往来も少ない。ドーン荘園の当主ドナルド・ドーンは病床にあり、相続問題が持ち上がっていた。この荘園には呪いがかかっていて、当主に子供が出来なかったり、子供が早世してまともな相続ができないと言われていた。
ドナルドの息子コリンは放蕩者、病弱なのに酒好きで飲酒運転で園丁の一人息子をひき殺したこともある。そんな彼が一念発起、海外を見てくると1月に旅立った。ドナルドの下には、地中海の街から何通か手紙が届いた。そして帰宅する予定の週、荘園の漁番が、道端でコリンの死体を発見した。しかし医師らが駆け付けると、死体は跡形もない。皆が狐につままれた気分でいると、2日後(2/13)の朝また漁番が死体を見つけ、今度は医師らにも確認された。
11日に死んでいたのか、13日に死んだのかは、保険会社にとって大問題。多額の保険金は11日の死去なら手続き上支払わなくていいのだ。この事件の真相を探るため、保険会社はブレダン夫妻を調査員として派遣する。この夫婦、どちらも切れ者で各々のやり方で関係者から事情聴取をする。何度も2人だけの会話が交わされ、この部分の推理合戦がとても面白い。
どこかミステリーを揶揄した、それでも作者の聖職者としての知見に満ちた作品でした。あとの4冊、手に入りませんかね。