新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヒルダ105歳、スヴェン102歳

 本書は「にぎやかな眠り」と「蹄鉄ころんだ」を以前ご紹介している、シャーロット・マクラウドのシャンディ教授シリーズの第三作。米国東海岸北部のバラクラヴァ郡にあるバラクラヴァ農業大学で応用土壌学を専攻しているシャンディ教授は50歳代後半。「にぎやかな眠り」の事件で司書助手のヘレンさんと知り合って、長い独身生活にピリオドを打った。

 

 新婚の彼はその後、美しい豚の失踪事件も解決し地域の名探偵扱いされている。農業大学のあるこの街では当然のように農業が盛んなのだが、担い手はかなり高齢化している。そこそこの農地を持つホースフォール家の当主ヒルダは105歳、同居している甥のヘニーでも82歳だ。誕生祝のインタビューに訪れた地元記者に長生きの秘訣を聞かれたミス・ヒルダは、「亭主とかいう面倒なものを一生もたなかったからだよ」とうそぶく。

 

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 ところがインタビューついでにホースフォール家の土地にある「ヴァイキングの石碑」を写真に収めようとした記者は、同家の作男が生石灰をかぶって死んでいるのを見つける。薬剤散布の機械の操作を誤った事故とも見えるが、その後記者自身もバイク事故で死にそうになる。街で囁かれるようになったのは「ルーン(文字の)石碑の呪い」。

 

 バラクラヴァ郡には古代(10世紀ころ?)にヴァイキングが根城にしていたとの伝説があり、財宝が埋まっているという人もいる。確かに掘り返してみると、ヴァイキングの兜らしきものや金貨が発見される。

 

 さらに農業大学の学長の大伯父にあたるスカンジナビア人スヴェン博士が、石碑のそばで倒れているのも見つかる。ミス・ヒルダが応急処置をするのだが、102歳のスヴェン博士はミス・ヒルダに一目ぼれ、結婚を申し込む。彼らにとってはシャンディ教授夫妻など「鼻たれ小僧」である。

 

 前作の「豚の失踪事件」よりは事件らしいとはいえ、名探偵シャンディ教授の周りには奇怪な輩がやってくる。例えば、ホールフォース家の先祖が残した遺産の相続人たち、同家の土地を法外な値段で買おうという不動産屋、土地開発をたくらむ都会の男・・・。

 

 日本人には分かりにくい言い回しやギャグの連発で、正直ページをめくるのが辛いところもある。ただ5回結婚した女が登場するなど、完全に壊れてしまった家庭と高齢になっても元気な人たちが目立つ。ミステリーというよりは、人生100年時代を揶揄した小話なのかもしれません。