新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

モンドリアンを巡る陰謀

 1983年発表の本書は、ローレンス・ブロックの「泥棒探偵バーニイもの」の第五作。1977年のデビュー作「泥棒は選べない」以降、おおむね年1作発表されてきたのだが、本書の後10年以上新作が途絶えている。

 

 決して暴力は使わない泥棒のバーニイは、表のビジネスとして古書店<バーネガット書店>を営んでいる。随所にいろいろな書籍が出て来て、作者の愛書家ぶりをうかがわせる。エラリー・クイーンもそうだったように「ファルコナーの初版本」などには目がない。先輩作家に挑戦する傾向のある作者は、本書ではレックス・スタウトを目標にしているようだ。

 

 「不動の探偵」として紹介しているスタウトのネロ・ウルフだが、題名に「・・・が多すぎる」が付く作品が複数ある。本書も「モンドリアンが多すぎる」という題名を付けてもいい内容だと、最後に登場人物が言っている。事件の始まりも、バーニイの泥棒業の相棒であるキャロリンの愛猫アーチー・グッドウィン(この名もウルフの助手のもの)が誘拐されるところからだ。

 

        

 

 アーチーは普通のビルマ猫なのだが、誘拐犯が要求する身代金(!)は25万ドル。もしくは「モンドリアンの絵」を持ってこいという。モンドリアンは実在のオランダ人抽象画家、バーニイたちは美術館から盗もうとするが警備が厳重で断念した。

 

 バーニイは直前に高級アパート<シャルルマーニ>に住む男の古書の査定をしに訪れているが、その部屋でモンドリアンの絵を見ていた。警備員や管理人の目が光るアパートだが、美術館に比べれば忍び込みやすい。バーニイはキャロリンに泣きつかれて<シャルルマーニ>に侵入する。しかし肝心の絵は無く、後に部屋の主人がクローゼットから死体で見つかり、またまたバーニイには殺人容疑がかかる。

 

 相棒キャロリンの存在がユニークだ。美女なのだが男に興味なし、犬の美容師が表のビジネス。奇妙なシチュエーションの中で、最後にバーニイが関係者をアパートの部屋に集めて行う「謎解き大団円」は圧巻の迫力。ややテクニカルに過ぎるかもしれないが、カギや絵の額縁のトリックも面白い。

 

 これは立派にレックス・スタウトに肩を並べる作品です。この作者、なかなかの腕前ですね。