新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

棺に片足を突っ込んだ弁護士

 1997年発表の本書は、「×法おもしろ事典」や「赤カブ検事シリーズ」を紹介した和久峻三のもうひとつのシリーズ「猪狩文助もの」の1作。すでに80歳を越えていて、歯は1本もなく白内障にも悩まされている、弁護士猪狩が主人公のシリーズである。口癖は「棺に片足を突っ込んでいる(自分)」。

 

 もともとは奈良県の弁護士で、コロンブ刑事よりひどい身なり。ヨレヨレの背広に寝巻の紐のようなネクタイ、という見苦しさだった(らしい)。しかし本書からは新シリーズということで、京都に拠点を移しちょっとはマシな身なりになっている。ミステリーの主人公なのだから名探偵のはずで、法曹界では「法廷荒らし」とあだ名されている。相手が高名な判事だろうが、やり手の検察官だろうがくってかかり、証人など歯牙にもかけぬ暴れん坊。

 

        

 

 そんな彼の事務所が今回巻き込まれたのは、京都北部の山地での交通事故だった。赤いポルシェが崖から落ちて、乗っていた女子高校生が死んだ。ポルシェを挟むように3台で無謀運転をしていたのが、ピックアップトラックSUVSUVを運転していた大学生が拘留され、その父親からの依頼で猪狩事務所が介入する。

 

 死んだ女子高生は無免許の上、高校生売春組織の一員の疑いもある。文助は容疑者にされそうだった大学生を釈放させるが、今度はその大学生が交通事故で死んでしまった。本人は死んだ女子高生は知らないと言い張っていたが、実は親しかったらしい。この2つの事件に、ラブホテルで強盗を働いた女子高生グループや、高校教師の不倫などが加わり、事件が広がっていく。

 

 文助は長く法曹界にいるため、警察にも検察にもカオが利く。事務所のイソ弁青年が唖然とするような強引さで、事件をつつきまわすのだが犯人グループの魔手は文助にも襲い掛かった。面白いキャラに特徴はあるものの、ミステリーとしては平板。このシリーズはあまり買えませんね。