新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

英国冒険小説の傑作なの?

 007譚を引き合いに出さなくても、英国人の冒険小説好きは有名な話だ。エンタメ風のものでなく、シリアスな冒険小説の人気も高い。僕も学生の頃にジョン・バカンの「39階段」、文豪サマセット・モームの「アシェンデン」などの名作を読んで、強い印象を持っている。本書はそんな英国で<サンデー・タイムズ>が「ミステリーベスト99」を選んだうちに入った作品である。

 

 作者ジェフリー・ハウスホールドについては、日本ではほとんど知られていない。30冊近い著作がありながら、日本では数冊が翻訳出版されているのみ。僕も読むのは初めてである。原題の「Rogue Male」というのは放れ獣の意味だと本書にある。一匹狼みたいなものだろうか?

 

 冒頭イギリス人の「わたし」が大陸の独裁国家の親衛隊に捕まって、残酷な拷問を受け崖から突き落とされるシーンから始まる。全身に傷を負った「わたし」は、九死に一生を得るが這うように現場を離れるのが精いっぱいのありさま。

 

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 なぜこんな目に遭ったのかは、その独裁者を500mほどの距離から狙撃しようとしたからとあるのだが、狙撃の動機は最後に近くならないと明らかにされない。1939年という発表年から見て「わたし」が狙ったのはヒトラーであることは明白なのに・・・である。とにかく傷ついた体を引きずって川を下り、追っ手を振り切ってイギリス行きの貨客船に密航して帰国に成功する。

 

 そこからがまたわからない行動で、大陸国のスパイに付け狙われながら「わたし」はイギリス政府に保護を求めない。むしろ追手のスパイを殺してしまい、警察にも追われる羽目になる。孤立無援の「わたし」は、子供の頃に親しんだ南部ドーセット州の田舎で兎穴の多い斜面に洞窟を掘って隠れる。お供はそこで親しくなった山猫一匹。

 

 次々に襲い掛かる試練、肉体的なものも精神的なものも「わたし」に降りかかる。「わたし」は不屈の精神で何度も挫折しかけながらこれを乗り越える。しかしついに追手のスイス人が、銃を持って洞窟に迫ってきた。

 

 章立てがなく段落も20ページくらい読まないとやってこない、とにかく読みにく本だった。主人公の試練に立ち向かう姿は分かるのだが、母国に帰ったら保護をうけるべきではなかろうか?スイス人との死闘のあと、また母国を離れる「わたし」・・・。シチュエーションが納得いかず、これが傑作?と驚いてしまいました。