新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

中国の人口はまだ4億人

 本書(2017年発表)の著者川島博之氏は、東大大学院農学生命科学研究科准教授。専門は環境経済学、(土地)開発経済学。食糧危機対策や日本の農政改革に係る著書があるが、中国に多くの教え子がいて彼らを訪ねてかの国の地方を巡った経験が豊富。

 

 出版のころ、中国の人口は13億人と言われていたが、著者によればその内訳は、

 

1)都市戸籍を持ち都市に住むもの 4億人

2)農村戸籍を持ち地方都市や農村に住むもの 6億人

3)農村戸籍のまま都市に「出稼ぎ」しているもの 3億人

 

 となっている。3)の人達を「農民工」と言って、主にエッセンシャルワーカーとして低賃金で働いている。妻子を呼ぶことも出来ず、貧困状態での暮らしだ。都市部での都市戸籍者と農民工の格差は、日本の格差社会などとはケタの違うひどさだと著者は言う。

 

 この「戸籍アパルトヘイト」は、共産党政権が作ったものだが、ルーツはもっと昔の王朝時代にさかのぼる。中国の歴史は北部の「麦文化」の国が、南部の「米文化」の国を支配していた時代が長い。人口の少ない北の国は好戦的で、人口の多い南の温和な民族を支配してきたと著者は言う。史実は確かにそう、南から出た王朝が全国統一を果たした例はない。麦vs.米というところが、面白い視点だ。

 

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 その結果、中国の(温和な)農民たちは支配されることに慣れてしまい、戸籍差別を受けても「そんなものだ」と思ってしまう。特に食糧の増産に励むわけでもなく、十年一日の日々を送っているのが農村の実態。著者は多くの地方を巡り、共産党政権が農村の経済発展には全く寄与していない実態を見ている。統計上は業績が上がっているのだが、それはその地方の幹部が出世したいための「虚偽報告」。中国のGDPは、その寄せ集めだと手厳しい。

 

 中国のこれまでの発展は、農村を搾取し、安い労働力である「農民工」を使って得たもの。それに上記の虚偽統計が加わる。ここまでの分析は非常に面白いが、本書の後半はどこかで聞いたような「中国崩壊論」。武士道も騎士道もないとか、朝貢貿易しか経験がないとか、軍事・外交下手と指摘し、最後は農村の反乱が起きると言っている。

 

 僕らの知っている中国人は、都市戸籍の4億人の中でもさらに選ばれた人たちです。それも減少傾向にありますよね。内政に問題をはらんだこの国との付き合い方を、改めて考えるべきでしょう。