新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2010年代、10年間の変化

 2021年発表の本書は、中国の市民(主として都市戸籍の上位層)の意識や生活について書かれたもの。著者の中島恵氏は、中国事情に詳しいフリージャーナリスト。かの国の政治や軍事についての書はたくさん読んだが、一般市民の意識というものには疎いので、本書を読んでみた。

 

 筆者は長く中国市民の生活を見て来て、特にこの10年間に大きな変化が出てきていると指摘する。かつては、

 

・30歳までに結婚すること

・その際男はマンションを用意すること

・子供を最低1人は持ち出来る限りの教育を施すこと

・子供は学校では学業に専念すること

・そしてよい社会的地位を得て老親を養うこと

 

 が求められていた。しかしこれらの考えに、変化が見られるとある。

 

 第一に不動産市場の高騰がある。大都市部では、1億円ではマンションは望むべくもない。しかし都市部では、1世帯平均1.5戸のマンションを持っている。つまり持っている世帯は2~3戸以上持っているということ。これは住むためのほかに、投資として転売目的の所有が多いことを意味する。これが不動産高騰に拍車をかけ、無理してマンションを買わなくてもいいという諦観市民を産んでいる。

 

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 加えて教育費の高騰もある。中学受験の塾の費用が年間90万円などを皮切りに、各種の習い事が大人気。単に授業料だけではなく、毎年の発表会や合宿、遠征などに多額の費用が掛かる。さらに日本よりもさらに急速に進む高齢化で、老親の介護にも費用がかかる。日本人の「子どもに迷惑をかけないよう」という感覚は中国人には薄く、「子どもが面倒見るのが当たり前」との風潮だし、高齢世帯の預金も非常に少ない。

 

 「よい職業」についても変化がある。かつては「灰色収入」の多い職業(公務員など)が人気だったが、習大人の「腐敗撲滅キャンペーン」でワイロの類は摘発されかねなくなった。ただ医師には「心づけでベッドを空けてもらう」などの副収入があり、年収の数倍に及ぶほど。

 

 「爆買い」にも変化があるという。以前は日本の家電量販店で炊飯器を買うのに「ここで飯を炊いて見せろ」と迫った彼らが、今では中身も見ないで買っていくという。日本の信用が増したというより、この程度の買い物に面倒な事は不要と思っているらしい。

 

 このように変わった市民に、巨大IT叩き・教育改革・共同富裕の政策が降りかかってきます。さて、彼らはさらに変わるのでしょうか?