新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ロケハン男ジョン・ベラム

 首から下がマヒした状態で犯人を追い詰める天才鑑識官リンカーン・ライムのシリーズで、押しも押されもせぬベストセラー作家になったジェフリー・ディーヴァーだが、ルーンというポップなおねえちゃんを主人公にしたシリーズを3作出していることは、以前紹介した。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/05/25/140000

 

 まさに「ローマは一日にして成らず」というわけだが、ルーンもの以降にも、別の主人公で3作シリーズを書いていたことが分かった。それが本書にはじまるジョン・ベラムものである。原題の「シャロウ・グレイブス」は直訳すれば「浅い墓」、本書には墓地で映画のロケをする空想・回想シーンが何度か出てくる。

 

 ベラムは過去を背負った30歳代の男、かつては映画監督を務めたこともあるが今では映画業界では最下層にあたる「ロケーション・スカウト」をしている。映画のロケをする場所を探し、使わせてもらうための交渉や調整をする係だ。そんな彼がニューヨーク州の田舎町にやってくるところから、物語は始まる。

 

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 町の人たちのよそ者に対する目は、他の地域にもまして厳しい。ベラムの交渉は暗礁に乗り上げ、摩擦が高まったせいか相棒のマーティは車の爆発に巻き込まれて死んでしまう。プロダクションからクビを言い渡されたベラムは、ひとり町に残って相棒の死の真相を知ろうとする。

 

 実はこの町には麻薬が蔓延していて、麻薬取引に関わっていない人も外部の人間にはそれを知られまいとしてよそ者を警戒しているのだ。しかし10歳の子供が誤飲で病院に担ぎ込まれるなど、実態は隠しおおせないところまで来ていた。

 

 サスペンスものを書くコツは、主人公に次々に試練を与えることだという。作者はその教えに倣い、ベラムはありとあらゆる困難に襲われる。ただこの時、どうして彼が「もうやーめた」と言って街を去らないかという理由付けが必要になる。

 

 後年「どんでん返し職人」の異名をとった作者だから、終盤のスピーディで意外性にあふれた展開はさすが。しかし、上記の理由が納得できなかった。実は本書は、最初に発表されたものから70枚ほど書き足されているという。作者も初版に何かの不満を感じ、手を入れていたのだ。それが成功だったかどうか、僕にはまだ分からない。このシリーズも、「マエストロのもうひとつの習作」だったような気がします。