新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

キャサリンの京都の正月

 1978年発表(恐らく書き下ろし)の本書は、山村美紗の「キャサリンもの」。以前「花の棺」や「燃えた花嫁」を紹介して、細かなトリックの積み重ねのミステリーだと評している。本書もそのパターン、米国副大統領の娘で金髪碧眼の美女キャサリンは、通訳代わりの友人浜口講師の招きで京都の正月を堪能しようと日本にやってきた。しかし遭遇するのは、例によって殺人事件。

 

 大晦日の「おけら詣り」に浜口と出かけた彼女は、晴れ着姿の若い女性が破魔矢で殺される現場に居合わせた。本来矢じりを丸めているはずの破魔矢だが、一年前のものに鋭い切っ先を付けていて、心臓を貫かれた被害者は即死している。夜中とはいえ、大勢の通行人がひしめいていた中での犯行だった。

 

        

 

 駆け付けた狩谷警部は、被害者の晴れ着のたもとから、百人一首の1枚の札を見つける。犯人が残したとしか思えない札に、キャサリンの探偵魂が目を覚ます。彼女は百人一首の専門家宮井教授を紹介されて、その奥底を知ろうとする。日本語を勉強している彼女にとっても、古代の和歌はなかなか分かりにくい。さらに百人一首そのものが「暗号」ではないかとも伝えられている。

 

 カルタ競技の真剣さを見ているうちに、キャサリンはその競技の中に殺人事件の動機が潜んでいるのではないかと思い始める。被害者は百人一首の勉強会のひとりで、大病院の娘と分かるが、今度は宮井教授が密室状態で殺されてしまった。現場にはまた1枚の札が・・・。

 

 正月らしく舞妓さんが登場する一方、被害者の父親が経営する大病院で噂される不思議な幽霊騒ぎなど、華やかさと怪奇趣味が混在して物語が進んでいく。500ページ近い長編ながらプロット含めて読みやすく、直ぐに読み終わってしまった。連載物にありがちな不自然さはないのですが、どうしても底の浅さは感じますね。大家に対して失礼とは思いますが。