2007年発表の本書は「実戦学シリーズ」などを紹介した、元陸将補松村劭氏の実戦教本。以前「戦術と指揮*1」を紹介していて、これは架空戦でのパズルブックだったが、今日からの2冊は戦史に基づくもの。本書には26の設問が用意されている。
冒頭「戦術=仕掛け+仕上げ」だとある。相手を欺き仕掛けの中におびき寄せ、機を見て打撃を与えて仕上げるわけだ。加えて、戦争を自然科学(技術)面だけでとらえるのは間違っていて、むしろ社会科学(心理+)面の影響が大きいとある。設問として取り上げられた戦闘の多くで、勝者は相手を心理的な罠にかけている。
・隠し予備隊を配置して、側背から奇襲をかける
・堅固な陣地に籠る敵軍を、誘引して平地に引き出す
・助攻と主攻を欺瞞して、間違った方向に敵に注意を向けさせる
などである。
確かに新兵器の登場など、技術的な革新はインパクトはある。本書にも、
・欧州戦線で初めて火薬が使われた例
・軍艦が陸上の敵に対して火力を使った最初
・あぶみによって馬上での安定を増した騎士の破壊力
の記述はあるが、じきに双方が同じ装備を備えるようになって、差異は「仕掛け+仕上げ」の名人芸の有無になっていく。
本書の設問には3つの選択肢が示されている。それは次の4種類のいずれかだ。
・効果最大案
・成功期待値最大案
・最大安全値案
・最小後悔値案
で、一般の戦術指揮官教育では、いちかばちかではあるが効果最大案を最初に考えるよう教えているとある。
国家間の緊張が高まった時、軍事力の均衡を図るのは当然だが、実際軍事力の測定はプロでも難しいとある。4つの要素があり、
1)戦闘ドクトリン
2)編成、装備、戦力量、兵站量
3)指揮官の戦略戦術能力、指揮統制能力
4)部隊の訓練、士気、規律、団結
のうち2)以外は計測困難である。GDP比何%では本当の能力は測れないのだ。
<続く>