新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

巨匠のショート・ショート18連発

 巨匠エラリー・クイーンは、短編の名手でもある。3名ほどの容疑者をあげておいて、鮮やかな決め手でそのうちの一人を犯人と名指しする。作品のハイライトを凝縮した形の短編は、デビュー当時から人気だった。それは2人のうちの一人フレデリック・ダネイが<EQMM誌>の編纂に尽力してからも衰えず、方々で発表された短編をいくつかの短編集として再版している。

 

 1954年発表の本書は、短編というより10ページあまりのショート・ショート18編を収めたもの。各編に小さなアイデアがひとつあり、それをエラリーが最終ページで指摘して事件を解決する。ごちゃごちゃしたミスディレクションや背景設定がないだけ、純粋推理だけに特化して楽しむことができる。

 

        

 

 いくつか興味を惹いたものを紹介しよう。

 

◇三人の寡婦

 莫大な財産を持つ未亡人が、遺産目当てで殺害されるのを恐れて、部屋に閉じこもり食べ物・飲み物も厳重に管理していた。しかし毒殺されてしまったという、不可能犯罪。

 

◇角砂糖

 上院議員をはじめとする、著名人3人に容疑がかかった殺人事件。被害者は致命傷を受けながらも這って行って角砂糖をつかんで死んだ。エラリーはこれをダイイングメッセージだと判断する。

 

◇ライツヴィルの盗賊

 唯一30ページ越えの短編。エラリーの心の故郷で、数ヵ月前に起きた強盗致傷事件。盗まれたカネが行方不明のままだったが、容疑がかかった青年を救おうとエラリーが介入する。地中で腐った札束が、唯一の犯人を示してくれる。

 

◇七月の雪つぶて

 大物宝石強盗の犯行について、元の情婦が証言してくれることになった。しかし、彼女をカナダから列車で護送しようとして、クイーン警視は列車の消失に見舞われる。7月の暑さの中<雪つぶて号>は駅間で溶けてしまったのか?

 

 18回も楽しめる、ご機嫌な短編集でした。作者に乾杯!