ホロコーストという言葉はナチスによるユダヤ民族への迫害、民族浄化計画を指すことが多いが、もともとはユダヤ教の獣を丸焼きにして供える祭りのことを示すギリシア語だという。ナチス・ドイツ勢力下の広大な地域(西はフランスから東はウクライナまで)で殺害されたユダヤ人は600万人に及ぶ。当該地域では、民族の70%が犠牲になっている。
本書にも「ドイツ人を600万人殺さないと(収支が)合わない」という言葉が出てくる。ナチス・ドイツの敗戦が自明になってきたころ、パレスチナで約5,000名の「ユダヤ旅団」が編成された。本書は、その戦中・戦後の活動を、3名の士官・下士官の目を通して描いたもので、ノンフィクションながら並みの小説を上回る読みやすい語り口が特徴である。
それでも交差点の村であるタルヴィージオにはユダヤ難民もやって来て、旅団は徐々にホロコーストの全貌をつかみ始める。またポーランドなどに家族を残してきた将兵も多く、彼らはイギリス軍の監視の目をかいくぐって活動を始める。旅団の「新十戒」が本書に示されている。
「お前たちの民族を殺戮した奴らを憎め~孫子の代まで」に始まるそれは、本家の十戒とは全く違うものである。彼らは「ユダヤ民族の名において、死刑を宣告」した殺戮を繰り返していく。またイギリス政府はユダヤ民族のパレスチナへの移動を禁じ、アラブとの紛争を避けようとした。これは戦争中にアラブとユダヤ両方に「約束」をした二枚舌外交のツケなのだが、ユダヤ旅団は欧州大陸じゅうから難民を救出しパレスチナへ送った。ヒトラーは確かに悪役だが、チャーチルもそれに近い罪を負っているように思う。