これがあるエリート軍人に付けられたあだ名である。その人物とは、元大本営参謀辻政信大佐。ノモンハン事変で事実上の指揮を執るなど活躍した一方、悪しざまに言う人も少なくない。
タイで終戦を迎えた彼は、戦後の工作のためタイに潜行するが、蒋介石との日中戦後交渉のためインドシナ半島から中国を横断して「三千里」を旅した。その記録が本書で、1950年に<サンデー毎日>に連載されベストセラーとなったもの。国会議員も務めたが、1961年にラオスで行方不明になった。
タイは独立国(&中立国)だったが、日本の降伏に伴い英軍が進駐してきた。辻は僧侶に身を変えていたが、日本で軍人教育を受けた人たちに助けられる。カンボジアからベトナムへの行程でも、同様に国民党軍にいる協力者によって護衛されたり便宜を図られている。もちろん混乱状態の国を行くので、まともな衣食住は得られない。
重慶まで行き、蒋介石にも接触できた。しかし国民党軍は中共軍との戦闘で負け続ける。その理由は国民党の腐敗。軍人もまともな給料が払われないので、市民・農民から強奪したり、商人等からピンハネしたりする。身分や階級が高いほど、贅沢な暮らしができ格差が大きい。それに比べて中共軍は平等な組織、若者は続々中共軍に参加し、国民党軍は戦わずに逃げ出す始末だ。
揚子江の北を中共に譲る策も容れられず、辻は帰国の途についた。彼が聴いた国民党の識者の言葉が以下である。
・蒋主席の周りに忠言するものがいない
・主席は中共軍が弱かった時代の意識が捨てられない
・早期に日本の技術と米国資本を得るべきだがそうならない
・日本の工場を利用せず撤去するなど愚の骨頂
・政治の腐敗を徹底的に行うべきだが・・・
若者が悪事をしないと生活できないので、中共に身を投じている。中国の政権(王朝)末期はそんなものらしい。
大変な苦労談で、家族や軍人仲間に対する深い心情が綴られていました。どこまでが真実かは不明ですが、少なくとも当時の中国(国民党)の状況については、間違いはなく、現在の中国を見るためにも参考となる書でした。