1945年発表の本書は、以前「暗闇へのワルツ」「暁の死線」「幻の女」などを紹介したサスペンス作家ウイリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)が第三の筆名ジョージ・ハプリイ名義で発表したもの。ウールリッチ名義で黒をモチーフにした復讐譚や犯罪物を、アイリッシュ名義で追い詰められた若者を主人公にしたラブ・サスペンスを書いていたのだが、本書はそのどちらでもない。
なんと主人公の青年ショーンは刑事。ある夜の帰り道で自殺を図った娘ジーンを助けたことで、奇妙な事件に巻き込まれる。ジーンの父リード氏は資産家でやり手の投資家、母親は亡くなっているがジーンは20歳になるまで多くの使用人にかしづかれて何不自由なく育った。

しかし一人のメイドが予言をする男のことを話してから、リード氏に危難が及ぶようになる。予言者は西海岸から戻るリード氏の乗機が墜ちるといい、実際にその機の乗員乗客は全員死んだ。しかしリード氏は何者かの電報で予定を変えており、命を長らえた。予言者は、予定が変わることすら見抜いていた。
その後リード氏は予言者とのつきあいで、投資で儲けるのだが、ある日死期を告げられる。曰く「ライオンの牙にかかって死ぬ」と、死亡日時まで予言したのだ。絶望したリード氏とその姿に半狂乱になるジーン。ショーンは2人を救うため、上司に掛け合って非公式捜査を始めてもらう。予言者はどんな手段を使うのか、ライオンはどこにいるのか、仲間の刑事達が調べ始める。ショーン自身は2人の側で、ガード役を務める。
確かにショーンとジーンは「追い詰められている」のだが、敵の正体がわからない。本当に予言は当たるのか?そのサスペンスが強烈に読者を最後まで引っ張る。
ただ、これはどう分類していいか分からない小説でした。予言の謎解きも不十分だし、ファンタジーでもない。アイリッシュの代表作という人もいますが、評価の分かれる作品だと思います。僕は、ちょっと苦手かな。