2023年発表の本書は、元中国大使宮本雄二氏の「中国政治展望」。TVニュース番組でもおなじみの、中国研究者である。習近平体制は、異例の三期目に入った。今世紀半ばには米国を押しのけて「富強・民主的・文明的な強国」になるとの目標を建てた。これは「中国の夢:Make China Great Again」で、中間点である2035年までにはいくつかメドを建てる必要がある。
毛沢東の失敗以来鄧小平路線では集団指導体制だったが、習政権は権力集中に努め5年目には個人崇拝につながる「習近平思想」を発表している。その特徴は、
・政治とイデオロギーを重視
・党の指導を強調
・党の建設、つまり組織を強化
の4点だとある。
ソ連共産党は市民を恐れていなかったが、中国共産党は市民を恐れる。これは中国王朝が倒れるときは、ほぼ市民蜂起が引き金になる(*1)からだ。経済成長期には共産党指導力に納得していた市民も、今は「次の何か」を求めてくる。そこで政権は歴史問題を強調し、ナショナリズムに訴え、軍備強化を強調した。習政権としては、上記のような「中国の夢」を公約せざるを得なかったのだ。
中国市民の根底には道教思想があり、日本人が思うほど儒教や仏教の意識は高くない。中国人が「空気」に支配されやすい(*2)のも、呪術の匂いがある道教ゆえかもしれない。政権は常にその空気を量り、先回りして収めるべきことは収めなくてはならない。
外交においても、ウクライナに侵攻したロシアに与することはできず、かといって「西側」にも加われないなど、瀬戸際外交が続く。少なくとも2027年まで軍拡は続くが、決して米中戦争を望んでもいない。苦しい政権運営だが、一部の論にあるように中国崩壊などは起きない。
日米外交は、中国に過激な道を採らせないよう「習近平路線の修正」を求めていくべきとあります。さて、トランプ政権が、その方向に動いてくれるでしょうか?
*2:空気はSNS等で飛躍的に大きく成り得る。学生の夜間サイクリング規制もその対策