新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

圧巻の大河ドラマ(前編)

 ミステリー小説の上手さには、4つのカテゴリーがあると思う。

 
(1)構想
 プロットと言ってもいい。全体を流れるテーマを、どういうスタンスで扱うか。まれには、これそのものがトリックだったりする。
 
(2)エピソード
 ごく短い短編を除いては、複数のエピソードを絡めるのが普通。各々の内容やその組み合わせ方の工夫。
 
(3)サスペンスやリアリティ
 時代背景や場所、登場人物の性格、小道具など読者をひきつけていく、ややテクニカルな面。
 
(4)表現や言葉の使い方
 同じシーンを描いても、使われる単語やその順番、組み合わせなどが巧みかどうかということ。 
       f:id:nicky-akira:20190428195603j:plain
 
 (4)については翻訳ものの場合は訳者によって変ってしまうこともあるが、このうちの2つが優れていれば読むに堪えるミステリーだと思う。
 
 本書はスチュアート・ウッズのデビュー作。TVドラマ化され、3週連続でNHKで放映されたものを見た記憶がある。米国南部ジョージア州の田舎町を舞台に、あしかけ45年間続いた連続殺人事件解明の経緯を追ったものだ。小説として読んでみて、これは上記4項目とも二重丸をあげられる傑作だと思った。
 
 タイトル(Chiefs)の通り、架空の街デラノの3人の警察署長が主人公。綿花農場を営むウィル・ヘンリー・リーは、害虫被害で農場経営をあきらめ街の警察署長に立候補する。人種差別がはっきりしていて、「西部劇」の匂いが残る1920年前後の田舎町の生活がヴィヴィッドに描かれている。リーと警察署長(といっても部下もいないのだが)の座を争って敗れた犬の飼育業者ファンダーバーグの農場の側で、若い白人男性の全裸死体が見つかる。
 
 死因は崖からの転落なのだが、その前にイスのようなものに拘束されゴムホースなどで長時間にわたって打擲されていることが分かる。これが凶悪事件に無縁だった田舎町での大量猟奇殺人事件の最初の兆候であることは、リー署長を含めだれも予想しなかった。
 
<続く>