新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2025-12-01から1ヶ月間の記事一覧

ダネイ最後のシノプシス

本書は、巨匠エラリー・クイーン最後の短編集だが、最後の長編「心地よく秘密めいた場所」の次の長編になるはずだった「間違いの悲劇」のシノプシス(梗概)が中心になっている。1929年「ローマ帽子の謎」でデビューした、フレデリック・ダネイ(1905-1982)…

コンパクトな戦争論

2002年発表の本書は、軍事史作家柘植久慶のコンパクトな戦争論。おそらくは文庫書下ろしで、どこかの雑誌に連載したかもしれない34のエピソードを、300ページの中に収めている。三国志の世界を舞台に、覇者や将軍、参謀などの行動を通して、勝敗や生死を分け…

全113話、ついに完結

「帰ってきた木枯し紋次郎」シリーズも、本書が最終短篇集となった。以前この「続編」シリーズを「アラフォー渡世人のリアル」と評したが、当時の40歳は中年から老年への入り口。野宿をし、豆餅をかじり、運が良くても柏布団にくるまって寝る無宿の渡世人の…

見えない手が人を殺す

1940年発表の本書は、不可能犯罪の巨匠ジョン・ディクスン・カーの<フェル博士もの>。2023年になって、60年ぶりの新訳で創元社が出版してくれたもの。中学生の頃にすでに絶版になっていて、僕にとっては全くの新作と同じである。 エセックス州サウスエンド…

民主主義の根幹のはずだが

2020年発表の本書は、自ら「選挙マニア」と称する宮澤暁氏の、選挙面白事件簿。日本の第二次世界大戦後の9つの、主に地方選挙で起きた珍事を集めたものだ。珍事と言ったが、基本的には公職選挙法違反、もしくは違反か否かのグレーゾーンの話だ。 総じて有権…

戦争未亡人ジェーンのエジプト旅行

2020年発表の本書は、米陸軍やメリーランド州警察に勤めた後、本書でデビューしたエリカ・ルース・ノイバウアーの本格ミステリー。アガサ賞最優秀新人賞を受賞した作品である。 舞台はWWⅠ後1926年のエジプト。22歳で結婚した夫を戦争で亡くし、未亡人暮らし…

ロッキーの麓、メサグランデの街

1990年発表の本書は、以前短篇集「謎解きはディナーの後で」を紹介した、ジェームズ・ヤッフェの<ママシリーズ>。珠玉の安楽椅子探偵ものだったが、後年このユダヤ人一家は、ブロンクスからロッキー山脈の麓、メサグランデの街に移ってきた。NYPDで警視に…

僕は8,000人のうちの一人です

1971年発表の本書は、多作家西村京太郎の初期作品。出版社の勧めで往年の名探偵が登場する作品を書くことにした作者が、4部作を書き下ろした第一作。クイーン、ポワロ、メグレと明智が集められて、三億円事件に挑むことになる。大富豪佐藤大造は、模擬「三…

メディアも国民も反応しないが・・・

2023年発表の本書は、何冊か紹介した気鋭の政治学者白井聡氏と、思想史に名を残す内田樹氏の対談による「戦争できる国になりつつある日本への警告」。岸田内閣が防衛三文書改訂から防衛費増を決定して、タモリ氏が「新しい戦前」と評した時代の論説である。 …

「植物の探偵」和久井実菜登場

2017年書下ろしの本書は、京都を舞台にしたいくつかのミステリーもの(*1)を手掛ける仲町六絵の連作短編集。京都西陣にある「なごみ植物店」の店員和久井実菜が、「植物の探偵」として植物たちの謎を解き明かす。 神苗健は京都府立植物園(*2)の新米職員、…

PFLP-GC議長への復讐劇

1992年発表の本書は、冒険小説10冊ほどを執筆した匿名作家A・J・クィネルの軍事スリラー。正体を明かさない理由は「取材の自由を確保するため」だという。確かに本書では実際の事件(*1)を扱い、その首謀者をPFLP-GC(*2)議長と決めつけているのだから、創作…

新世代のWWⅡ歴史検証

2025年発表の本書は、ドイツ現代史が専門の歴史作家大木毅氏(*1)の「太平洋戦争の検証」。すでに多くの歴史家が取り上げたテーマだが、僕より若い世代が「戦略・作戦・戦術」を立体的に検証したというので読んでみた。多くの検証が、 ・戦略面 例:なぜ米…

フェミニズム運動家の危機

2000年発表の本書は、先月「家族の名誉」を紹介したロバート・B・パーカーの<サニー・ランドルもの>第二作。作者は<スペンサーもの>で有名だが、そのファンである女優ヘレン・ハントが自ら出演したいと女性探偵ものの映画の原作にとねだり「家族の名誉」が…

伝えたい人にだけ伝えるには

1947年発表の本書は、レイモンド・T・ボンドの編集による暗号を用いた短編ミステリー集。21編と、巻頭にボンドの暗号論、巻末に江戸川乱歩のエッセイが収録されている。ボンドは、真珠湾攻撃の前に在米国大使館の来栖大使と本国の電話(傍聴)録を引用して、か…

電脳社会の未来、超入門編

2022年発表の本書は、テクニカル系ジャーナリスト小林雅一氏の「量子コンピュータ(Quantum Computer:QC)超入門編」。これにかかると従来の暗号が解けてしまって、社会システム(例えば仮想通貨)が瓦解すると怖れられているのがQC。通常1ビットは0か1…

ロス棚氷が溶けてしまえば

WWⅡ後に締結された「南極条約」では、いかなる国も南極を領有したり軍事利用したりしてはならないとされている。しかし大異変が起きればそこに策謀が生じるのは当然のこと、1986年発表の本書はそんな大異変と米ソ両国の暗闘を描いている。作者のリチャード・…

冷戦終結、スパイたちの運命

1991年発表の本書は、フレデリック・フォーサイスのエスピオナージ。「騙し屋4部作」の第1作で、ずっと探していたものだ。第2~4作はすでに本棚にあるので、今月から毎月1冊紹介していきたい。 サム・マクレディは英国秘密情報部SIS(*1)のベテラン諜…

米国の戦略家はこう考えている

2025年発表の本書は、米国ハドソン研究所上席研究員の村野将氏が、米国の戦略家4人と2022~24年に対談した記事に書下ろしを加え、トランプ2.0政権の対中戦略(のあるべき姿)を描いたもの。その4人とは、 ・クレピネビッチ元国防長官顧問 ・マクマスター元…

若い未亡人のバラと新しい恋

1986年発表の本書は、エリス・ピーターズの<修道士カドフェルもの>の第13作。かつてシュルーズベリの門前通りに服地の店を出していたジュディスは、夫を病で亡くし自らも流産して一人になった。資産家でもある21歳の彼女は、店を修道院に貸与して自らは隠…

WWⅢ、決戦の地はアフリカ(後編)

しかし「休戦」に異を唱えたのがポーランドのジェリンスキ大統領。多くの市民や軍人を殺され、ロシア軍を黙って返しては沽券にかかわる。彼は一つの街を犠牲にする覚悟で、復讐戦を企画した。 原野での戦車戦でが不利と見たポーランド軍は、急いで引き揚げる…

WWⅢ、決戦の地はアフリカ(前編)

2019年発表の本書は、マーク・グリーニーが海兵隊大学指揮幕僚カレッジの副学長H・リプリー・ローリングスⅣ世と共著した軍事スリラー。極東から欧州、アフリカまで含めた広い舞台で、米露を中心とした正規軍の殴り合いが繰り広げられる。まさにWWⅢであり、上下…

偏屈な発明家が遺した栄誉

今日12月10日は、ダイナマイトの発明で巨万の富を築いたアルフレッド・ノーベルの命日。偏屈者だった彼の遺産を使って贈られるのが、世界的に権威あるノーベル賞である。2017年発表の本書は、共同通信ロンドン支局の記者たちが取材した、ノーベル賞の舞台裏…

15インチ砲老嬢、最後の闘い

1997年発表の本書は、海の冒険小説家ダグラス・リーマンの海戦もの。これまで数冊紹介しているが、主人公たる船は河川砲艦、掃海艇等々割合小型のものだった。ところが本書では、3万トン超の巡洋戦艦<リライアント*1>である。 巡洋艦の機動力(速力30ノッ…

哲学者たちの太平洋戦争

これまで日本海軍についてはさまざまな技術的、経済的な分析をした書を紹介しているが、2001年発表の本書は「思想戦」がテーマ。真珠湾攻撃の直前から、京都学派と呼ばれる哲学者たちが、 ・日米開戦の回避 ・一日も早い有利な条件での終戦 ・敗戦後の処理を…

<歴史街道>のWWⅡ分析記事

2019年発表の本書は、PHP研究所の月刊誌<歴史街道>に掲載された、太平洋戦争関連の記事15編を収めたもの。初出は2008~2019年と様々だが、歴史研究なので古い記事でも参考になると考えて買ってきた。著者は複数の記事を書いた人もいるので12人。したがって…

旧日本軍の兵器とその開発背景

2005年発表の本書は、以前「パールハーバーの真実*1」などを紹介した軍事ライター兵頭二十八氏と、歴史評論家別宮暖朗氏の共著。WWⅡで使用された旧日本軍の兵器は、速戦即決型の戦争を戦うために開発されたもので、長期の戦争に耐えるものではなかった。特に…

密接に連動する「ドル・石油・暴力」

2020年発表の本書は、経済ヤクザ出身の評論家菅原潮氏(通称猫組長)の投資指南書。「COVID-19」禍と米中戦争で、世界経済は大きな打撃を受ける。今できる最善の投資は「投資しないこと」だというのが本書の主張。 高校時代から株式に興味を持ち、バブルに踊…

精神分析医とのチェスゲーム

1984年発表の本書は、「危険な犯罪小説家」と帯で紹介されるジェイムズ・エルロイのサイコ・サスペンス。「血まみれの月」でデビューしたロス市警ハリウッド署のロイド・ホプキンス部長刑事の第二作だというが、前作は手に入っていない。 危険な刑事と評判の…

共同体社会復活への提言

2024年発表の本書は、東京大学名誉教授(財政学)神野直彦氏の「社会再生論」。厳しい新自由主義への批判が込められていて、それが共同体社会を壊し、格差を広げて人間相互の信頼関係を失わせたとある。財政を単なる国家の「勘定」と思っていた僕には、大き…

京都が舞台の「Cozy Mystery」

2012年発表の本書は、京都大学出身のミステリー作家岡崎琢磨のデビュー作。第10回「このミス大賞」隠し玉賞受賞作である。舞台は京都、青年アオヤマ君が本格喫茶<タレーラン>で出会う美星という名のバリスタと、日常的な小さな事件の数々を描いたものだ。…