新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2025-06-01から1ヶ月間の記事一覧

恐怖の殺し屋ウェズリイ

1989年発表の本書は、「ブルー・ベル」に続くアンドリュー・ヴァクスの<バークもの>の第四作。次々に新しい敵、それも強力な敵が登場するのが、この種のシリーズものの宿命だが、今回バークが対峙するのは悪魔も同然の恐怖の殺し屋ウェズリイ。 このシリー…

被害者が乗ったL特急<ひだ号>

「浦上伸介&前野美保シリーズ」の作者津村秀介は、60作あまりの作品を遺した。西村京太郎らのような多作家ではないが、1990年代には年間3~4作品を発表し「脂がのっていた」時期に、66歳で急逝されたのが惜しまれる。 本書の発表は1994年、「浜名湖殺人事…

危険な目隠し鬼ごっこ(後編)

1965年を過ぎ第二期となると、ソ連の原潜も活動が活発になってきた。弾道ミサイルを積んだSSBNも多くなり、太平洋や大西洋に進出してきて、米国本土に核ミサイルを撃ち込む能力を備えるようになる。しかし騒音が大きくソナーの性能も良くないので、1隻のSSB…

危険な目隠し鬼ごっこ(前編)

今月紹介したトム・クランシー著「原潜解剖」には、現代の潜水艦の任務の中に「情報収集、偵察(含む海底ケーブル通信傍受)」が記載されていた(*1)。その詳細を改めて見てみようと、本棚から探し出してきたのが本書(1998年発表)。著者は調査報道ジャー…

おせっかいなイギリス貴族

18世紀末期のフランス、「自由・平等・博愛」の旗印のもと起ったフランス革命は、多くの陰惨な事件を生んだ。貴族階級の専横に怒った庶民が政権を打倒し、貴族階級を次々にギロチンにかけた。パリの街に虜囚となり命の危険にさらされていた貴族たちを、イギ…

国家が生き抜くための7箇条

2024年発表の本書は、アジア・パシフィック・イニシャティブ(API)の創設者船橋洋一氏の「国際秩序が壊れた今の地政学」教本。これまで「シンクタンクとは何か*1」など3冊を紹介していて、その最新論説が本書である。 米国の孤立化で国際紛争が頻発してい…

スマイリー三部作のスタート

1974年発表の本書は、昨年「寒い国から帰ってきたスパイ」を紹介した、英国スパイスリラーの巨匠ジョン・ル・カレの<ジョージ・スマイリーもの>。スマイリーは50歳代で、小太り短足のベテラン諜報員。「寒い国・・・」にも脇役で登場していたのだが、本書に始…

南カリフォルニアの入り江

1989年発表の本書は、南カリフォルニア州ニューポートビーチ在住のエリザベス・C・ウォード作の社会派ミステリー。以前は素朴な港町だったニューポートビーチは、なだれ込む不動産投資資金や移民難民によって、様相を一変させていた。金持ちのリゾートとしての…

足掛け5年、史上最大の地上戦

今日6/22は、WWⅡで独ソ戦が始まった日。丸4年かけた史上最大の地上戦の始まりである。1995年発表の本書は、米軍退役大佐デビッド・グランツ氏とジョナサン・ハウス中佐の独ソ戦研究。 独ソ両国はポーランド分割の密約を果たしていて、スターリンはヒトラー…

金細工人家の披露宴での事件

1983年発表の本書は、エリス・ピーターズの<修道士カドフェルもの>の第七作。イングランド南部の内戦は続いていたが、シュルーズベリの町はスティーブン王の勢力圏で平穏さを取り戻していた。しかしある金曜日の夜、ラドルファス院長以下修道士たちが祈り…

ハードボイルドの祖、自身の事件

1975年発表の本書は、ノワール作家として知られTV・映画脚本も多いジョー・ゴアズ(*1)が、ハードボイルド小説の祖ダシール・ハメットを主人公に描いた伝記的ハードボイルド。1928年、「血の収穫」「デイン家の呪い」「マルタの鷹」の原稿に手を入れていた…

雨上がり、一人だけの足跡

1939年発表の本書は、不可能犯罪の名手ジョン・ディクスン・カーの<フェル博士もの>。屋外の密室殺人含めて2つの不可能犯罪の謎が提供される、作者の独壇場ともいえる本格ミステリー。青年弁護士ヒュー・ローランドが恋した娘ブレンダは、両親を亡くして…

アナログ時代からの偽情報工作

2016年発表の本書は、調査報道ジャーナリストであるニコラス・スカウ氏の「CIAの黒歴史」。アナログ時代からCIAは、多くの偽情報で世論操作などの工作を行っていた。CIAは自らの非合法行為を隠ぺいし、それを暴こうとするジャーナリストを陥れ、偽りのイメー…

サンタ・クリスティーナ号が運ぶもの

1948年発表の本書は、以前「小鬼の市」などを紹介したヘレン・マクロイのサスペンスミステリー。舞台はベイジル・ウィリング博士が探偵役を務める作品に使われる西インド諸島だが、ベイジルは登場しない。「トリッキーなサスペンス小説を得意とする技巧派」…

非凡な凡人警官のデビュー作

1925年発表の本書は、本格ミステリー黄金期の作家として名の上がるF・W・クロフツのレギュラー探偵フレンチ警部(のちに警視)のデビュー作品、作者の作品としては「樽」「スターヴェルの悲劇」「クロイドン発12:30」を紹介しているが、黄金期の他の作家(*1)…

「未熟な資本主義」を示す数値

2022年発表の本書は、IMFエコノミストの経験もある東京都立大教授宮本弘暁氏(労働経済学)の「日本経済論」。日本経済低迷の原因は、その未熟な資本主義にあるとの主張である。 2022年当時岸田内閣の「新しい資本主義」が提唱されていたが、筆者はその前に…

剣とお色気、ニヒリズム

本書は以前「江戸八百八町物語」を紹介した、剣豪作家柴田錬三郎の代表作。「週刊新潮」創刊(1956年)に合わせて、同誌に延々連載された作品である。大目付の娘がころび伴天連に犯されて生まれた子、眠狂四郎。邪剣である「円月殺法」で、並み居る剣客や御…

主任警視は依然意識不明

1973年発表の本書は、パトリシア・モイーズの<ヘンリー&エミーもの>。ロンドン警視庁きっての捜査官ヘンリー・ティベット主任警視は、働き者だが妻との旅行が大好き。この初夏にも、田舎の村ゴーズミヤ(*1)に住む妻エミーの姉ジェーンを訪ねていくつも…

世界一の知のパワー、光と影

トランプ政権とハーバード大学の抗争が激しくなっているが、世界一の知のパワーを持ち、多くの卒業生らからの寄付で潤沢な資金を持っているハーバード大学について、その内実はどうかを示してくれた書として、本書(2001年発表)を本棚から取り出して再読し…

戦略・作戦・戦術上の圧倒的戦力

昨日「トム・クランシーの原潜解剖」を紹介したが、クランシーは5編の米軍調査レポートを書いている。取材先は、 ・1993年、第二潜水艦軍 ・1994年、第三機甲騎兵連隊 ・1995年、第366航空団(本書) ・1996年、第26海兵遠征部隊 ・1997年、第82空挺師団 と…

無限エネルギーを得た海の忍者

1993年発表の本書は、軍事スリラー作家トム・クランシーが米軍に取材してまとめた「現代の海の忍者の実像」。30年前の書ではあるが、本書で次世代艦と紹介される<シーウルフ級>は、今でも米軍のエース(*1)。だから本書の記述の大部分は、今でも参考にな…

今、AIユーザが気を付けること

本書は、桜美林大学メディアアーツ学部の平和博教授の「Chat GPTの考察」。2023年1~5月に公表された著者のブログを再編集したものだ。著者はGPT2.0のころからの生成AIの発展を見てきて、GPT3.5から4.0への飛躍に驚いている。性能が向上しただけでなく、ブ…

英国労働党の静かなクーデター(後編)

MI5のプレストンは、ついに国防省高官で情報漏えいをしていた者を特定した。しかし彼は、友好国南アフリカの外交官に操られていただけだった。南アに飛んだプレストンは、この停年間際の外交官の素性を洗うために、南アじゅうを走り回る。 外交官はWWⅡでドイ…

英国労働党の静かなクーデター(前編)

1984年発表の本書は、「King of Story Teller」フレデリック・フォーサイスの<政治スリラー>。今年「戦争の犬たち」を紹介しているが、それは軍事スリラーではあるが発展途上国の独裁者を倒す話と、金融市場での陰謀がからみあっていた。本書はさらに政治…

ヒギンズが描く「D-Day秘話」

1986年発表の本書は、冒険小説の雄ジャック・ヒギンズの「D-Day秘話」。多くの作家が取り組むテーマだが、「鷲は舞い降りた」をはじめとする歴史冒険小説を得意とし、リアリティにこだわる作者ゆえなかなかの傑作に仕上がっている。 舞台となるのは、ドーバ…

作戦級架空戦記

本書は「大鑑巨砲架空戦記作家」横山信義の比較的初期の作品。それまで5~10冊続く戦略級の架空戦記を書いてきた作者だが、一つの作戦に絞って上下巻でまとめる作品もいくつか書いた。本書のそのひとつ、舞台は有名なミッドウェーである。 破竹の勢いで暴れ…

8万人の野外コンサートの陰で

1973年発表の本書は、ルース・レンデルの<ウェクスフォード警部もの>。スコットランドの高地地区、ダートムアのキングズマーカムで巨大野外コンサートが開かれることになった。メインキャストはフォークシンガーのヴェダスト。若者たちが思い思いの恰好で…

覇王信長、本願寺との死闘10年

2003年発表の本書は、以前「図解 戦国兵法のすべて」を紹介した日本歴史宗教研究所武田鏡村所長の信長戦記。昨日の「織田信長合戦全録」にあったように、家督を継いで30年余り信長は合戦に明け暮れた。その中でも10年の歳月をかけ、結局攻め落とせなかったの…

「天下布武」の戦い、1552~83

2002年発表の本書は、史料に基づいた織田信長「天下布武」の戦いの実録。19歳で家督を継いだ信長が、1583年の今日(6/2)本能寺に斃れるまでの合戦史である。著者の谷口克広氏は中学教師。信長研究家であり「信長の親衛隊」などの著書がある。 1552年父親が…

大店を狙う強盗団の背後に

池波正太郎の「鬼平犯科帳」は全20巻以上だが、ほとんどは短編集。その中で本書(17巻)は、特別長編と銘打たれている。短編が1話完結TVドラマなら、長編は映画にもあたるだろう。おなじみの長谷川平蔵一家、火付け盗賊改方の与力・同心、密偵たちから、時…