新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ユーモアミステリー

リーダーズ・ダイジェストの思い出

中・高校生のころ、「リーダーズ・ダイジェスト」という雑誌をとっていたことがある。もうほとんど中味は覚えていないが、いろいろな書籍のエッセンスだけを集めたもので、全部を読む暇のない忙しい人が愛用していたらしい。高度成長期の、ワーカホリックを…

ノベライゼーションにかける手間

映画やTVドラマのノベライゼーションを読むことはあまりないのだが、以前「古畑任三郎シリーズ」の短編集を紹介したことはある。才人三谷幸喜が本領発揮した短編集だったと思う。TVドラマとしても面白かったが、ほどよく手が入っていて小説としても読め…

ベレスフォード夫妻、最後の挨拶

1922年に「秘密機関」でデビューしたおしどり探偵、トミー&タペンス・ベレスフォード夫妻。1973年発表の本書では70歳代もなかばになり、リューマチがどうのとか背中がつっぱると嘆いている。10歳代の孫もいる二人だが、冒険心は全く衰えていない。 物語は、…

ビジネス上手な私立探偵

本書の発表は1935年、アメリカで本格ミステリーが開花したころの発表である。作者のレックス・スタウトは、これが二作目。「毒蛇」でデビューしたのは、蘭と美食を愛し恐らくは120kgを超える巨体をもてあます私立探偵ネロ・ウルフとその助手アーチー・グッド…

イギリス貴族の「笑劇」

以前デビュー作「誰の死体?」を紹介したドロシー・L・セイヤーズの第二長編が本書である。デビュー作については、カッコいい貴族探偵ピーター・ウィムジー卿を主人公にした本格ミステリーとして同時期のライバルであるアガサ・クリスティより上手いかもし…

理系探偵シャンディ教授

東野圭吾の「ガリレオ」シリーズではないが、名探偵には理系の大学教授/准教授が少なくない。科学捜査の役に立つ知識を持っていることもあるし、直接的に鑑識や検視の役割を担うこともあるからだ。シャーロット・マクラウドはカナダ生まれ、東海岸育ちの作…

大人の童話ミステリー

クレイグ・ライスは、アメリカの女流ミステリー作家。ユーモアとペーソスにあふれる作風で、独特の地位を築いた。その特徴が非常に良く著わしているのが本書。原題の「Home Sweet Homicide」は、もちろん「Home Sweet Home」のもじり、Homicideというのは殺…

人生100年時代のプロローグ

アガサ・クリスティーは、トミー&タペンスものの長編を4つ書いた。最初の「秘密機関」は1922年発表、当時の2人は20歳代前半だった。しかし3作目の本書(1968年発表)では、2人は60歳代後半のはずである。2人の子供も結婚して孫もできた。そろそろ落ち…

完全犯罪へのヒント

ミステリーを読み始めた中学生のころ、謎解きが当たったりすると有頂天になり、自分は正義の味方になったような気がしたものである。次々と殺人事件の書籍を読み漁り、人殺しなんて悪いことをする奴を追求するのに没頭していた。名探偵は言うに及ばず警官・…

女王が帰るべきところ

「ミステリーの女王」アガサ・クリスティーは膨大な著作とファンを世に残したが、私生活は最初から幸福だったわけではない。ミステリーデビューに先だつ1914年、彼女はアーチボルト・クリスティー大尉と結婚(当時24歳)した。第一次大戦が終わり、1920年に…

明るいスパイ物語

イギリス人の好きなもの、年金・バラ・庭園づくり・紅茶・ミステリー。引退後は田舎に住み、土づくりからガーデニング、とりわけバラを作ってそれを眺めながらお茶の時間、雨が降ればロッキングチェアでミステリーを読み、そのうちにうとうと、というわけ。 …

価値のないもの盗みます

エラリー・クイーンという筆名を持つうちのひとり、フレデリック・ダネイは編集者としても巨大な足跡をミステリー史に残した。彼は「ミステリー・リーグ」という雑誌を創刊し一度は失敗するものの、再び「エラリー・クイーンズ・ミステリー・マガジン」(E…

美食のたまもの、300ポンド

美食と蘭を愛する、私立探偵ネロ・ウルフ。1930年代に始まる、アメリカン・ミステリーのひとつの究極を示した作品群である。作者はレックス・スタウト。ひげ面のお爺さんだが、作者自身も美食家であったらしい。代表作のひとつ「料理長が多すぎる」では、本…