新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

超大国の時代を前にした決断

 本書は1978年に発表された、陸軍大佐河本大作の一代記である。河本大佐といえば「満州某重大事件」の首班で、当時北京から中国東北部に勢力を張って「大元帥」と言われた張作霖を暗殺した人物として知られている。1928年、中国大陸の動乱は収まる気配を見せず、南の蒋介石国民党軍に対し北方軍閥の長らが一歩も譲らず、共産党軍はスターリンの支援を受けながらも弱小勢力。毛沢東などその他大勢の一人に過ぎない時代だった。

 

 張作霖は読み書きもできない満州の貧農の生まれ、馬賊として名を馳せたが、何度も死ぬ目にあっている。日露戦争当時ロシアの手先として働き、日本軍に捕らえられたときも何故か釈放され、自他共に「強運」の持ち主と認めていた。しかしその勢力下では食料不足・悪性インフレ・重税と、農民は塗炭の苦しみを味わっていた。

 

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 実は満州に勢力を張りロシアを排除するために、張作霖は使える「駒」だと日本陸軍上層部は思っていた。明確な「スパイ」ではないが、ある意味「無意識の工作員」として位置付けていたようだ。それゆえ日本軍に捉えられ銃殺されかかった時も、内紛で命を狙われた時も、日本軍の手で彼の命は助けられている。

 

 河本大佐は関東軍に赴任して、満鉄のシンクタンクの長大川周明から「20世紀後半は超大国の時代となる。米ソ英に中国が台頭し独仏などは衰退する。日本は中国問題を解決しないと生き残れない」と言われて、その最大の障壁である張を除く決意をする。中国国内も乱れていたのだが日本も一枚岩ではなく、例えば日本陸軍にも親張派も反張派もいたのだ。河本大佐は心利きたる仲間たちを集め、責任はすべて自分にあるとして張の列車を爆破しようとする。爆破には工兵も必要だし、満鉄の警備にあたっている部隊の協力も必要だ。河本はひとり、またひとりと協力者を増やしていく。

 

 歴史では知っている「張作霖暗殺」、深く知ったのは初めてでした。大佐は軍は追われたものの満鉄等の要職を歴任し日本に貢献します。それにしても大川氏の卓見、現在にも通じますね。