新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2019-04-01から1ヶ月間の記事一覧

名のみ知られた名作

中学生のころ本格的にミステリーを読み始めた。ほとんどは翻訳もので、創元推理文庫が多かった。創元社のカタログ様の小冊子があり、題名・作者・区分(本格・サスペンス・ハードボイルド等)・価格・4行ばかりの簡単な内容紹介が1ページに6作品分掲載さ…

密室という迷宮

本格推理小説の代表的なジャンルに「密室もの」というのがある。これを得意とした作家に、ジョン・ディクソン・カー(別名カーター・ディクソン)という人がいる。推理小説の始祖とされるエドガー・アラン・ポーの「ル・モルグ」も、ある意味密室殺人事件を…

本能寺の変、異聞

加藤廣は2005年本書でデビューしたが、その時すでに75歳。異例の遅咲きデビューであった。とはいえ、職業を選ぶのに何歳からがいいかという話で、「バレエのプロになろうとするなら3歳でも遅い、作家ならば40歳でもいい」というのがあるから、あながち無理…

大都市アイソラの刑事たち

1950年代の繁栄していたアメリカ。第二次世界大戦が終わり、米ソ対立の時代に入ろうとしていた時だったが、アメリカは世界の盟主だった。ハリウッド発の映画は自由主義陣営にくまなく供給され、TVドラマも世界に流れていった。アメリカは新しい文化の源だっ…

時代遅れのドクトリン

軍人は直近の大戦争のドクトリンで、次の大戦を戦うという。帝国海軍は日露戦争の、特にツシマこと日本海海戦の戦訓で太平洋戦争を準備した。大洋を越え遠征してくる敵国の主力艦隊、これを日本近海で待ち受け撃滅、制海権を失った敵国は講和へと傾く、とい…

東海道新幹線と35mmフィルム

アリバイ崩しの系譜として、津村秀介や深谷忠記のが多くの作品を残している。この2人より前に、松本清張「点と線」を受け継いでこのジャンルに注力した作家を一人ご紹介しよう。鮎川哲也は「ペトロフ事件」でデビューした本格推理小説家である。本書は1966…

サントリーミステリー大賞

昭和の時代、江戸川乱歩賞を皮切りに日本推理作家協会賞などミステリー作家を目指す人たちの登竜門ともいうべきコンテストがいくつか出来上がっていた。サントリーミステリー大賞もそのひとつ。表看板は酒造メーカーだがバックにはメディアがいて、受賞作品…

戦闘級のチャンピオン

シミュレーション・ウォー・ゲームには、4つのクラス分けがある。ゲームをする人から見ると、 ・戦略級 国家指導者の視点 ⇒ 外交戦、戦争経済運営、国民士気の鼓舞等、1コマは軍レベル ・作戦級 軍司令官の視点 ⇒ 戦力展開、兵站、作戦目標へのアプローチ…

文豪の余技

美術評論家ウィラード・ハンチントン・ライトがミステリーを書くにあたり、S・S・ヴァン・ダインという筆名を使うことにした。その理由を、イギリスに比べてアメリカの文壇にミステリーを軽視する傾向があるから、と述べている。確かにイギリスでは、文壇…

帝国海軍の4発機

第二次世界大戦は、事実上「空の闘い」だった。巨大戦艦も重装備の戦車も、制空権なきところでは有効な働きはできなかった。大戦前の研究時代も含めて数多くの機体が構想・設計・試作され、その大半は日の目を見ることなく廃棄された。 十分な航空資材を得ら…

ニューヨークの都市交通

アメリカは基本的にクルマ社会である。1800年代に"Rail Baron" と呼ばれる鉄道敷設競争もあったが、基本的に都市間交通の話。1900年代にあった年の近距離交通も徐々に廃止されていった。近郊電車や市電の経営が傾くと当時新興企業だった自動車産業がこれを買…

一式戦闘機「隼」

日本海軍零式艦上戦闘機、通称ゼロ戦(本当はレイ戦というのが正しい)に比べ、陸軍一式戦闘機「隼」は後世高い評価を受けていない。零式とは紀元2600年(1940年)に制式採用されたことを意味する。つまり一式戦は、1941年日米戦が始まるその年に採用になっ…

南カリフォルニアの女探偵、デビュー

アルファベットを順番にシリーズタイトルに付けてゆくという、稚気あふれる作品群を残したのが、女流作家スー・グラフトン。長く脚本家を務めてきたのだが、収入は多くても脚本家は影の存在、自分の顔を出して物語を世に問いたいと考えての転身だったらしい…

僕のアメリカはどこに行った

トランプ先生の所業には正直あきれ果てているのだが、米国内では厚い支持層を持っていて悪夢のような大統領再選の目も十分にあるという。「トランプ大統領誕生は、原因ではない結果だ」とする意見も聞いたことがあり、それならばトランプ弾劾などという事態…

奇術師の、奇術師による、奇術師のための

泡坂妻夫(本名厚川昌男のアナグラム)は、1976年本書で長編ミステリーのデビューを果たし、その後20編弱の長編小説と20冊ほどの短編集を残した。この人は作家デビュー以前から奇術の世界では有名な人である。奇術とミステリーには多くの共通項目があって、 …

寡作の鬼才

アイラ・レヴィンという作家がいる。足掛け50年間に、7作しか書かなかった。恐らく日本では、そのうちの2作しか知られていないだろう。 ・死の接吻 A Kiss Before Dying 1952年 ・ローズマリーの赤ちゃん Rosemary's Baby 1967年 しかし、この2作とも尋…

三角館の恐怖

本格的にミステリーを読み始めたのは中学3年生になったころだった。しかし、それ以前にもミステリーを読んだことはある。その代表格が「三角館の恐怖」である。著者は江戸川乱歩、確か子供向けの装幀だった。不思議な館、奇妙な遺言、複雑な人間関係、エレ…

美食のたまもの、300ポンド

美食と蘭を愛する、私立探偵ネロ・ウルフ。1930年代に始まる、アメリカン・ミステリーのひとつの究極を示した作品群である。作者はレックス・スタウト。ひげ面のお爺さんだが、作者自身も美食家であったらしい。代表作のひとつ「料理長が多すぎる」では、本…

傭兵に流れるマフィアの血

名作「鷲は舞い降りた」などで有名な、冒険小説の雄ジャック・ヒギンズの比較的初期の作品(1969年発表)が本書。わたしことステーシー・ワイアットはハーバード大学で学んだこともある青年だが、母親の死がきっかけで家を出て傭兵になる。金の密輸に関与し…