新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

出し汁8・醤油1・みりん1

 先月、元麻布「かんだ」の料理長神田裕行氏の「日本料理の贅沢」を紹介した。<すき焼き>には和牛肉と松茸しか入れない(!)というメニューには驚いたが、和食の「贅沢」なところを存分に(誌上で)味わった。まことに奥の深い和食の世界、感心したけれど、自分ではとてもできないとも思った。そういえば・・・というので本棚を探って出てきたのが本書(2004年発表)。

 

 ずいぶん前に買って読み始めたのだが、冒頭包丁の種類や使い方、研ぎ方などが詳述してあって、

 

・刺身を切るのは片刃でなくてはいけない

・ふぐ、平目などの切り方、マグロ、カツオなどの切り方

・包丁は毎日(!)研いでいれば、10分/本もかからない

 

 などの「ご指導」に閉口した記憶がある。さすがは西麻布のふぐ料理の名店「とく山」の総料理長野崎洋光氏だけのことはあると、圧倒されたのだ。まさに「包丁人」の世界である。お刺身好きの僕は、自分がサクを買ってきて切っていたやり方を反省し、それ以上読み進めなくなっていた。

 

        f:id:nicky-akira:20220117163034j:plain

 

 しかしその後舌も肥えてきたし、世界中の料理も経験したので、もう一度読んでみようと思った。包丁のテクニックはともかく、いくつも美味い料理を味わうヒントが本書から見つけることができた。

 

 代表的なものが和食のキモである「出し汁」。カツオ、煮干し、干し椎茸や昆布を使って(熱を入れ過ぎない)出汁の取り方、それに8:1:1の比率で醤油とみりんを加えると「基本の8・1出し」が出来上がる。これで煮物を作ると、素材と出し汁が相互の成分を出し合って煮物も煮汁も際立つとある。他にも、

 

・魚などの素材は、まず「霜降り」にして表面に保護膜を作る

・貝、イカ、タコなどの霜降りは、65度を越えない湯で行う

・野菜やキノコ類でも、霜降り感覚で湯を通すと美味しくなる

・カツオのタタキは、火であぶった後冷やさず、手で「叩く」

・カキの下ごしらえは、大根おろしでもんで黒ずみなどをとる

・牛のしゃぶしゃぶも適温は65度、ナマのようなナマでないような仕上がり

・ローストビーフも焼いた後、蒸らす過程は65度で調理しているようなもの

 

 などと、自分でもできそうな「芸」が満載である。ずっと「積ん読」だったこの本、読むことができてとても良かったです。