2021年発表の本書は、ベテランジャーナリスト岸宣仁氏が、長年の大蔵~財務省人脈を使って財務省の人事から見る歴史を綴ったもの。作中人物のほとんどに('xx)と付記があるのは、入省年次の意味。大蔵大臣として登場する福田・大平元総理などにもその付記があって、いずれも大蔵省出身だったことが分かる。
霞ヶ関官僚の中で最大の力を持つと言われる財務省、そのTOPである事務次官は「官僚のTOP」といっても差し支えない。戦後入省してこのポストに就いた38人のリストがあるが、出身校の内訳は、
・東大法学部 32人
・東大経済学部 2人
・京大法学部 1人
・一橋大経済学部 1人
となっていて、巷間言われる「東大法学部出身者でなければ、人にあらず」というのは、ある程度真実に見える。加えて出世の3点セットである資質については、
◇センス (受験勉強の意味でなく)頭が良く、アイデア豊富なこと
◇バランス感覚 人情の機微を嗅ぎ分ける能力、ハートを持っていること
◇胆力 度胸と置き換えてもいい。子供の頃から挫折したことがないと得られない

だとある。本書の表題にある「ワル」とは、法を犯す悪人と言う意味ではなく「勉強もできるが、遊びも人並み以上に出来る(優れた)ヤツ」ということ。毎年財務省に入省するキャリアは20名前後だが、その中に5人上記の資質を持った「キラリと光る人材」がいれば、その年次は安泰だとある。
上記の3条件は、どんな組織にも民間企業にも適用できると思うが、2点ほど僕が違和感を持った特徴がある。
1)旧制一高の伝統で、バンカラ気質が残っていること
弊衣破帽はいいけれど、どうしても内側では「先輩が言うんだから無茶でもするし、羽目を外すときは徹底的に」となって、過剰接待やその他の誘惑を受けやすい。
2)理系が極端に少なく、意見などにも偏りが見られること
次官はもちろん、理系出身の局長というのもこれまでに1人(!)しか出ていない。社会はデジタル経済に移行しているのに、それに追随できるのか。
'80入省の森信親元金融庁長官(東大理Ⅱ)曰く「法学部出身者は、現制度を所与として改善を考える。理系は、経済を系として捉え何が一番最適かから発想する」。同年入省の高橋洋一嘉悦大教授(東大数学)も、数字を扱う官庁での法学部支配に警鐘を鳴らしている。